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しかし、そのひばりとの子供を授かっておきながら妻とする実感がわかない。他人の子供でさえ温かい、可愛らしいと感じるので、生まれてくる自分の子もそう思いはするのだろう。
思うものの感じられない。こんな秀人の心の一部は壊死して、頑なとなり、機能しない様子。
頑なと言えば立花も同じか、秀人は友人の姿を浮かべた。
丸井家十八番の隠蔽で個展での暴行は絵を狙った強盗事件へと仕立てられる。不運にも強盗と鉢合わせた立花は画家の生命を経たれ、代表作が行方不明という筋書きで世に広まった。
今現在、秀人と立花の交流は途絶える。優子の失踪が自分に責があると立花が譲らず、合わせる顔がないと言う。風の噂だと単独で捜索をしているらしく、再婚を報せても返事がこない。
秀人は結婚を祝う大量品々を前にして、脇へひっそり置かれた薔薇へ手を伸ばす。見事で香りもよい。喜怒哀楽の揺らぎが少なくなった分を五感が補う。もともと鋭かった嗅覚はより働き、短剣を翳してみた。
女性でも扱い易い重さ、装飾は控えめだが細やかな職人の技術が映える。
「魔を払う短剣か」
秀人にもその程度の知識が備わり、花言葉の把握もできた。真紅の薔薇の花言葉は愛情、情熱、そして全てをつくす、だ。
贈る本数によって意味合いがあって【何度生まれ変わってもあなたを愛する】意志を込める際は抱えれない程、必要とする。
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