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秀人は束から1本抜き出し胸元へ差し、懐に短剣を入れる。なんとなくこうして身に付けたかった。
送り主は誰だろう、心当たりがーーあり過ぎる。伝言を添えていないか花束を確かめたところ、1枚を発見。
その手紙には達筆でこう綴られる。
『ご結婚おめでとうございます。いつまでも幸せが続きますように。黄昏の君より』
読んだ途端、秀人の胸はどくんと跳ねた。
別段特別な旨は書かれていないのに文章から言い得ぬざらつきを覚え、このざらつきが錆びた心の扉を削ごうとする。
胸を抑え、秀人な短剣の輪郭をなぞってみた。こんな動揺は懐かしい。文面を深く読み込んでみよう。
女性は結婚を寂しく思う背景から【黄昏の君】と名乗るのか、いいや、これは暁月の対として黄昏を名乗ったのであろう。
暁月は暁、夜明けや明け方。黄昏は夕方、勢いが衰えた頃と比喩される。とどのつまり、秀人のせいで日影の暮らしする者を表すとしたら?
秀人はかつて丸井の先代が画家を囲い、援助した手法を福祉事業において採用。表向きは社会的弱者の救済をするが儲ける裏がある。女主人が気が強くないとやっていけないと言ったが、秀人とて綺麗事ばかりじゃ世を渡っていけない。
立花が秀人の側を去った本当の理由、それは立派な建前越しに先代を重ねたからであり、もはや秀人を始め、誰も優子の安否など気にかけていなかった。
あの日、徳増と絵画と共に消えた優子。全員を裏切り失望さた代償とし、歪んだ憎まれ方をされている。
例えば、ひばりは花嫁衣装に優子を磔(はりつけ)、立花はもう存在しない優子を探す真似をし、秀人が優子以外の救済者という仮面をつけた。
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