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「如何しましたか?」
通り掛かった酒井は部屋を覗き、薔薇を差す秀人に眉を上げた。
「【黄昏の君】から品が届いてな」
「【黄昏の君】? はて、どちらのお姫様でしょうか?」
「お前の事だ、俺が関係を持った女達には金を渡しているよな? この女には手切れ金を払い忘れたんじゃないか?」
「いえ、そんなはずありません」
「では仕事関係か」
「そちらの薔薇は嫌がらせの類でしたか?」
「……嫌がらせではなく宣戦布告? 上手く説明出来ないが、そんな予感がする」
「宣戦布告とは、これまた大胆な。私達をどうしようと言うんでしょう?」
「古くて利用価値のない教会を潰したり、養子縁組を装って人を売り買いしてるんだ。ばちが当たって、後ろから刺されても仕方ないだろ」
「ばち、とは……意外と迷信深いんですね」
「お前が何も信じないだけだろ」
「信じてますよ、秀人様のことは」
もし仕掛けられようと戦いになるはずない、酒井は既に勝ち誇る。秀人の選択の天秤には常に暁月家の繁栄がかけられ、もう片方へ傾くことがないのだ。
しかし、秀人から手紙を受け取ると顔色が変わる。
「【黄昏の君】とやらが持ってきたのは、そちらの薔薇だけでしょうか?」
「ああ、これだ」
身につけた短剣を見せられて、酒井は裂けんばかり見開き手紙をくしゃりと丸める。
「いいだろ? お前にはやらないぞ。あぁ、それとーー」
酒井が口元に手をやり固まっているが触れることなく、話題を移す。
そんな短剣を側に置くなと説教が始まれば日が暮れてしまう。それより酒井に確認しておくことがある。
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