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変わらぬ速度でジューノは進んだ。その前には幾つにも別れた迷路が。
「いよいよだな。魔物を倒しながら先に進む、予定通り二つに分かれてな。
お前等には俺の意志の紐をつける。迷った時にはそれをたどってここに戻れ。アガシオンが待っている。」
ジューノがサイゼルに強い視線を送り、それにサイゼルが頷いた。
打ち合わせ通りにサイゼル達が右に、ジューノとアレンが左へと別れた。迷路の入り口に目印をつけ虱潰しに迷路を当たっていく。 「こんな方法しかないのか。時間が掛かりすぎるぞ。」
遂にアレンが怒りを爆発させた。
「無い。」
あっさりとジューノが言う。
「くそっ。」
アレンが土壁に当たり散らし、
「ランダの罠なんだよ。俺達を捕らえるための。」
「捕まえてどうする・・喰うか。ならばこんな回りくどい手は使わずとうにそうしてるはずだ。
ランダは純粋に贈り物を与えるつもりだ。だがここに巣くった魔物がそれを許さない。」
「手掛かりはないのか。」
「無い・・今のところな。
ランダが何かを残していれば・・・」
ジューノは思案顔をした。その横で虎がゴウと吠える。
「虎・・・幽鬼ベイコク・・・ベイコクは鬼族・・それに牛鬼も・・ランダもまた・・・」
突然ジューノは手を打った。
「ランダは動物を飼っていたか。」
「いいやあんまり聞いたことはないな。そんな事は俺よりサイゼルの方が知っているはずだ。」
アレンは面倒くさそうに先を急ごうとする。
「待て・・戻るぞ。」
ジューノは連絡役のアガシオンを呼び出した。
広間に全員が集まり、ジューノはアレンに投げかけたと同じ問いをサイゼルに投げかけた。
カリカリとサイゼルが土の上にその答えを書く。
「やはりな・・鍵は虎だ。
アレンはランダの子。同じような性癖と臭いを持っている。
ランダの配下は鬼族、それに動物系の魔物が多い。そしてランダは幼い虎を飼っていた。それも三頭。アレンが生まれた頃までな。」
「それでも虎は虎だろう。」
「虎は獲物を襲うとき静かに近寄り、一気に獲物を倒す。
あの三頭の虎にそう言った動きは見られなかった。」
「じゃあなぜ襲ってこなかったと言うんだ。」
「宝物庫を長い間護らせるためにランダは己の血を虎に与えたはず。
ランダは人であれ魔物であれ、その本質的な臭いまで嗅ぎ分ける。その血を得、あの虎は似た臭いを持つアレン、お前を嗅ぎ分けた。」
「だが魔物と一緒に・・・」
「たぶん牛鬼とベイコクは虎と共にこの宝物庫を護る役目を与えられたはず。だが、ここに強力な魔物が棲み着き、元々魔物でしかない牛鬼とベイコクはその妖気で元の魔物に戻った。だが生を持ちランダの血を与えられた虎はその役目を全うしようとした。」
「それじゃあ可哀想なことしたってことか、殺しちまって。」
「まだ・・・」
ジューノは倒れた二頭の虎に近寄り、落とされた一頭の首を胴体に着け、その上に一枚の呪符を貼り付けた。そしてもう一頭、穴だらけの躰にも呪符を一枚貼り付け、アレンにその上に血を垂らすように命じた。
血を受けた呪符が二頭の虎の躰に溶け込み虎が起き上がる。
「生き返りはしない。だが、この呪符の効果が続く限りこいつ等は俺の僕(しもべ)となる。」
ジューノは大きく一息をつき、さて行こうか。と、歩を進めた。
「道は。」
「お前の虎が教えてくれる。」
何カ所かの入り口の前でアレンの傍らの虎がゴウと吠え、その声が洞窟の奥まで響き渡る。魔物に知れる可能性はある。だがそれがただ一つの方法。
分かれ道を選ぶごとに虎が吠える。だが、ごく低位の魔物しか現れない。
「手ぐすね引いて待っているってことか。」
「そういうことだろうな。」
他愛も無い会話を交えながら先へと進んでいく。と、アレンの虎がひときわ大きな声で吠えた。
「いよいよだな、相手がどんな魔物かは解らないがな。」
大伽藍の正面に弓と矢が置かれている。その前には牛頭の魔人が・・ジューノの脳に直接話しかける。
(よくここまで・・餌食になりに来たか。)
「ミノタウロス、なぜこんな所にいる。」
(ここに居れば餌に困らん、森に入ってくる者達・・特に光の因子を持っているのが喰える。)
ミノタウロスは大きく笑い、
(ここまで来る者はそうはいない。さぞや旨かろう。)
「そうはいかんよ。」
ジューノが大声を上げる。
ヴモォーとミノタウロスが吠える。
背後には大きな袋を担いだ鬼、風袋と人が虎に変身した人虎。ミノタウロスの前には首無しの大男が巨大な鉈を持ち身構え、その横には木の杖を持った妖魔が現れた。
「刑天とロルウォイ。
気をつけろよ。ロルウォイは呪術を使うぞ。」
「頭が・・痛い。」
言っている側からミーアがしゃがみ込み、サイゼルはあらぬ方向を見ている。
「アレン、ロルウォイを先にやれ。」
「どっちだ。」
「木の杖。」
言いながらジューノはまず結界を張った。
甘いわ。と言わんばかりに吠えながら、後ろから人虎が襲いかかってきた。その対応はかろうじて動けるドルースがする。
「結果の中で闘えよ、ドルース。結界の外は風袋が放つ猛烈な風が吹いているぞ。」
ジューノが注意を与える風に乗りアレンが宙を奔る。
「鬼切り丸だ、一撃で斃せ。」
アレンにもまたジューノが声を掛ける。
躰を庇う杖ごとバッサリとアレンがロルウォイを斬り斃した。その瞬間サイゼルが我に返り、ミーアが呪文を唱え始めた。
「風は私が何とかします。」
幾重にも土の壁が張られる。が、それを次々と猛烈な風がぶち壊していく。壊されればまた次と、ミーアもまた渾身の力を振り絞って土壁を造っていく。
「魔物を呼んでも大丈夫か。」
怒鳴るアレンに、応。とジューノが答える。
まずジューノの手元の二匹の虎が相手に襲いかかる。が、刑天の大鉈がそのうちの一頭の胴体を両断し、ミノタウロスの斧がもう一頭の頭部をかち割った。
「低級な者は呼ぶな、餌食になるだけだ。
黄泉醜女(よもつしこめ)は風袋の相手を、カワンチャは人虎の牽制、人虎は・・ドルース、頼んだぞ。
アレン、ネヴァンに刑天の相手をさせろ。
スフィンクスと俺のアンフィスバエナはサイゼルと共にミノタウロスを斃す。」
「俺は。」
再びアレンが怒鳴る。
「サイゼルを助けミノタウロスと戦え。俺はミーアの守護と全体の均衡をとる。」
ミノタウロスに喰われた怨念かグールやスケルトン達も土を割って次々と現れてくる。
「ドルース、スパルトイを・・」
言いながらジューノは天之魔雄神(あまのさくがみ)の呪符を投げた。数には数、天之魔雄神は数体の烏天狗を引き連れている。
その間に前鬼と後鬼の断末魔の絶叫が聞こえる。前鬼はミノタウロスに、後鬼は刑天に屠られた。
ハオカーが刑天に突っかかるが、なかなか決着がつきそうにはない。刑天に対しどうにか効果を上げているのはネヴァンの鎌鼬のみ。それも大鉈に弾かれる方が多い。
他の召喚魔も同じ、敵の魔物と力はほぼ同じ、後は生ける者達の力量が勝敗を決める。
「面倒。」
ジューノはキンマモンとヒトコトヌシを召喚し、風袋と人虎に向かわせた。
これで有利になると思ったかジューノもまたミノタウロスに向かった。が、その目の前を飛びアレンが土壁に叩きつけられた。
「強い。」
アレンは首を振りながら立ち上がり一人唸った。
「中位でも中級の魔物、当たり前だ。」
「これで中の中か。」
アレンが驚いた声を上げる。
「そうだ。だが俺達が斃すべきは上位、もしくは高位の魔物のはず、これしきの者を斃せずにどうする。」
ジューノがアレンを叱咤する。
その言葉に歯噛みしながらも、もう一度ミノタウロスに立ち向うアレンの息が荒い。
背後ではヒトコトヌシの助力を得た黄泉醜女(よもつしこめ)がどうにか風袋を斃した。が、その時にはもうミーアの精(ジン)は尽きていた。
ミーアの頭に迫る人虎の爪をドルースがどうにか大鎌で防ぐ。しかしそのドルースも大きく土壁に弾き飛ばされた。
人虎が勝ち誇ったように笑う。が、キンマモンの妖力にその顔が歪み、苦しそうにもがく。その隙を風袋を斃した黄泉醜女(よもつしこめ)とヒトコトヌシが狙う。それでも人虎は二体の召喚魔を相手にどうにか防戦を続ける。そこへ渾身の力を込めて投じたドルースの分銅が二体の召喚魔の間を割って人虎の額を打った。
人虎が地に膝をつく。そこを狙って再び大鎌が飛び行く。
残るはミノタウロスと刑天。だが、刑天に対しているハオカーはネヴァンの協力を得ても押し込まれており、ミノタウロスを相手にするスフィンクスとアンフィスバエナも次々と傷を負っている。
そこに割り込むアレンの足下がふらつく。
「刀を鞘に収めろ、アレン。お前の精(ジン)が吸い尽くされるぞ。」
片膝をつき、渋るアレンの手からジューノが鬼切り丸をもぎ取る。
「長くは使えん。ここが限界だ。」
アレンは前のめりに地に伏した。
「スフィンクスには刑天の相手をさせろ。
サイゼル、俺とお前でミノタウロスと勝負だ。」
アンフィスバエナの毒息を煩そうにミノタウロスの斧が払う。
「サイゼル、時間を稼げ。」
ジューノの三本目の手が印を結ぶ。が、それはミノタウロスが発する衝撃波に邪魔をされる。
サイゼルはファルシオンを手にしているが、神剣たるその効果は何も現れていない。
「念を込めろ。お前の全てをその剣に込めるのだ。」
目を閉じたサイゼルの表情が変わる。ブーンと音を発し剣の回りの空気が歪み、剣が光を帯びる。眼を開け、光る剣を渾身の力を込め振り下ろす。
光の刃が空気を引き裂きミノタウロスに迫る。サイゼルの目にはゆっくりと見えるその光景は他の者には目にもとまらぬものだった。
真っ二つに断ち割られたミノタウロスが左右に分かれゆっくりと倒れる。そこまでを目にし、サイゼルもまた土の上に突っ伏した。
後は・・ジューノが刑天に目をやると、首無しの巨人もまたスフィンクスの後ろ足、大鷲の爪に引き裂かれていた。
アレンに力を誇る魔物が必要か。自身を除く者達全てが倒れた光景を眺めジューノはフッと息を吐いた。
その翌朝、目を覚ましたサイゼルの横には六本の矢とそれを射る弓が置いてあった。
「雷(いかずち)の弓矢だ。大概の魔物はこれで倒せる。が、矢は僅かに六本。大事に使えよ。」
次に目を覚ましたのはアレン。
「よくやった。だが、お前の精(ジン)もまだまだだ。それに使える魔物・・ネヴァンだけでは心許ない。」
アレンが首を傾げる。
「お前の権能(パワー)が有れば中位の魔物までは倒せる。だがそれを助力(サポート)するにはネヴァン以外にもお前に近い力を持つ召喚魔も必要だ。」
「そんな奴、どこにいる。」
「ワーロックのグリーンマン。」
「ワーロックの・・・」
「そうだ、サイゼルのハオカーと交換する。」
「サイゼルには。」
「もう一体・・探さんといかんな。それに俺も龍族をもう一体。
とにかく先ずはワーロックだ。
デヴィルズピークのワーロックに連絡を取るぞ。」
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