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スクナヒコを偵察に出し、数体のアガシオンを警戒の為に呼び出し、夜を重ねた。
「ドラゴンを欲した理由は均衡(バランス)を穫る為だけか。」
ファイアドレイクを斃した夜アレンがジューノに詰め寄った。
「とも言えん。
アンフィスバエナの動きは鈍く武器と言えば毒息とその牙だけ、今後、階位(レヴェル)の高い魔物を相手にする為には物理的に力の強い者が必要だった。
それには龍族が打って付け・・・まあ、もう少し階位(レヴェル)が高いものが理想だったがな。」
「お前の権能(パワー)はどこまである。」
「今のお前より高いのは確実だ。直(じき)に抜かれはするだろうがな。」
「どう言うことだ。」
「お前はランダの子と聞いた。
お前の権能(パワー)はまだまだ伸びる。そして百八の魔物を倒したとき、お前は邪悪なるものの命を奪う事が出来るようになる。
だが既にお前の権能(パワー)は低位の魔物をいくら斃しても伸びないほどに上がっている。
これからは階位(レヴェル)の高いものを斃すことに心がけよ。それはお前の権能(パワー)が高くなればなるほどそうなる。お前の権能(パワー)に遥かに劣るものを屠っても何の足しにも成らない。」
「お前もそうだ。」
ジューノは近くで耳をそばだてるサイゼルに向き直った。
「不思議な事にお前達二人の権能(パワー)は伸びている。
前にも話したと思うが権能(パワー)とは持って生まれたもの。伸びることはないはず。それがアレンはその血がそうさせるのか、サイゼルは光の子という特性がそうさせるのか・・確かに伸びている。ただ、サイゼルは権能(パワー)は伸びてもそれを補う精(ジン)が足りない。
サイゼルは精(ジン)の容量を上げる為、アレンは自由に闘う為、階位(レヴェル)の高い魔物を倒す必要がある。
それを心せよ。」
二人が大きく頷く。
「明日からは道程(コース)を変えポルペウスを目指す。
出てくる魔物はもっと邪悪で強力なものになっていこう。
まずは休めることだ、身も心もな。」
言うとジューノは毛布の中に潜り込んだ。
灰と砂が混ざり合ったサラサラと柔らかい
大地を踏みしめる。
その大地に似つかわしくない蹄の音が一行の耳に聞こえる。
「こんな所に馬がいるのか。」
ドルースが目を凝らす。その目線の先に大きな馬に跨がった鎧の騎士が見える。
「アロケル・・のようだな。」
その横でジューノが漏らす。
馬に乗った騎士の顔はライオン。ジューノに依れば序列五十二位の悪魔らしい。その手に握る長大な剣が示すように戦闘力は高そうだ。
「他にもいるぞ邪悪なのが・・・」
軽々しく動こうとするアレンをジューノが制する。
現れたのは人形(ひとがた)に蝙蝠の頭部と羽根を持った悪魔ダーエワ、十数体で徒党を組んでいる。
「今見えてるものだけではない。」
ジューノがさらに注意を促す。
動きを止めたアレンが鼻を鳴らす。
「確かにな・・邪悪な霊の臭いがしやがる。」
「お前は戦いになると興奮し自慢の鼻が効かなくなる。いつも冷静でいろ。」
その会話の間にもアロケルの足下の土が盛り上がり小鬼ボガートが二十体以上も現れる。
「一気に叩き潰すか。」
アレンが召喚の為右手を突き出す。
「一度に呼び出すのは二つまでにしておけ。」
ジューノの声にアレンが右手を退く。
「魔物を複数呼び出せばそれだけ精(ジン)を喰う。それは相加ではなく相乗となる。」
「なんだそりゃあ。」
煩そうにボガートを斃しながらアレンが訊き返す。
「3と3のものが6ではなく9になるってことだよ。」
ドルースが大鎌を振るいながら横から笑う。
「その理屈・・俺にはよくわからんが。つまりいっぺんにたくさん呼ぶなってことだけは解ったよ。」
その間にミーアが呼び出した黄泉醜女の回りには暗い影が林立し黄泉戦が数体現れた。
「一気に出たぞ。大丈夫かミーアは。」
アレンがジューノを見る。
「大丈夫だ。ミーアが呼び出したのは黄泉醜女一体のみ。後はその眷属だ。」
「解らん・・・」
首を捻りながらアレンはもう一体ダーエワを斃し、アロケルに肉薄した。しかし・・
「オッともう一匹。」
アレンが一抱えもある岩にクナイを投げた。
「よくわかりましたね。」
現れたのは灰色のローブを纏った司祭。その手にはアレンが投げたクナイが握られている。
「キュアか。」
「違う・・ようだ。」
アレンの言葉にすぐにジューノが返す。
「私とキュアの考えは違いましてね。」
言いながらガープは頭部に角と背に鉤爪がついた蝙蝠の翼を持った黒い鮫肌の本来の姿を現した。
「光は消すに限る。」
とだけ言って背中の羽根を翻すと自身は空中へと消え去った。
その後の空間が歪み、邪悪な霊が実体化してくる。
平凡な兵士でしかない黄泉戦達がそこに現れた青く冷たい炎を纏った邪霊プレタに次々に潰されていく。しかもプレタの回りで次々と邪霊が実体化し、胸に幾つものボタンが並んだ奇妙な軍服姿が形を成していく。
「ラームジェルグ・・
数には数だ。
ドルース、スパルトイを呼べ。」
ジューノは天之魔雄神の呪符を空中に投げた。
「ドラゴンか、何か強い奴で一気に潰せば良かろうが。」
「そうはいかん。あまりに階位(レベル)の違いすぎるものを相手に使えば徐々に持ち主と乖離していく。」
「そんなもんかい。」
口だけを動かすアレンにアロケルが馬上から斬りかかる。
危ない。と叫ぶミーアの声とは裏腹にアレンは大振りのナイフとクナイを交差させそれを受けた。
「鬼切り丸は。」
「お前の判断に任せる。」
「じゃあ、要らないよ、こんな奴には。」
アレンは両手に持った大振りのナイフとクナイだけでアロケルを相手しだした。
黄泉醜女はボガートを次々と斃しているがそれに率いられる黄泉戦の力はほぼ互角。烏天狗を率いる天之魔雄神はダーエワとの死闘を展開している。その弱い黄泉戦と烏天狗を狙って増殖するプレタが襲いかかってくる。
「サイゼル、カワンチャだ。」
一体ずつプレタを斃すサイゼルにジューノが声を掛ける。
ラームジェルグと闘うスパルトイの力もほぼ互角、その均衡を破るようにドルースの大鎌が飛び二、三体を一気に薙ぎ斃す。
カワンチャの召喚でプレタが斃されていき、闘いが有利に成っていく。その戦況を見て、俺は一休み。とばかりにジューノはミーアの傍らの石に腰を掛けた。
またお前だけお休みか。と、笑いながら罵声を飛ばし、アレンがアロケルを屠った。
首領を斃され、全体にけりがつくまでそれ程の時間は掛からなかった。
「もっと前に召喚のことをなぜ言わなかった。」
闘いが済んでアレンがジューノに詰め寄る。
「何事も経験だよ。以前ミノタウロスと闘った時、お前達は全てを出し切り、その場に倒れた。あの時他の魔物に襲われたら全く手の打ちようがなかった。
あの時はミノタウロスが最後の敵だと解っていたが今後はそうはいかない。
ミーアは魔術で精(ジン)を使い。ドルースの精(ジン)は元々少ない。サイゼルは階位(レヴェル)の高い者を呼び出せるだけにその精(ジン)の使い方は多大なものとなり、その回復に時間が掛かる。アレンの精(ジン)は俺を越えるほどのものを持ち尋常なものではないが“鬼切り丸”を使う為の精(ジン)が必要に成る。
ミノタウロスとの闘い、今回の闘いの経験を生かし今後の闘いに備えよ。」
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