ポルペウス奥の院へ

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ポルペウス奥の院へ

 ポルペウスが近づいてきた。アガシオンを数体前方に索敵の為出し、その後ろにスクナヒコ、直接の警戒にサイゼルのブルベガーを配し、ジューノ達は厳戒の元ポルペウス奥の院を目指していた。  そろそろだな。と言うジューノの手の中に一枚の呪符が戻り、ボッと燃え上がった。  「アガシオンが一体やられた。ブルベガーを戻せ。」  サイゼルに言いながら自身もアガシオンとスクナヒコを呪符の中に戻した。徐々に近づいてくる影は二人の巨人とその間を歩く司祭。 その前には一本脚の鬼が数体陣取りそのまた前にも土埃が上がっている。  「人を喰らう巨人ネフィリム、それに陰の巨人エティン。アレンこいつらは命を持っているぞ。」  ジューノが注意を促す。  「まだ生きていましたか。姿が見えないので魔物に喰われ、とっくに死んだのかと思いましたが。」  声の届く所まで近づいた司祭が笑う。  「コカドリーユもか。」  背中にヒレを持った数体の大きなトカゲにジューノが唇を歪める。  「だが、問題は・・・」  ジューノが珍しく振るう炎の魔術の中に人影が立つ。  「ヒノカグツチ。本来陰の魔物と一緒には現れないはず・・・」  その姿を見てジューノが唸る。  「階位(レヴェル)はスフィンクスより高く炎を使う。  サイゼルに持たせるには良い相手だが・・・」  「倒せばすむんだろう。」  アレンがズイッと前に出る。  「まて、変だ・・」  「何が。」  ジューノの言葉にアレンが返す。  「ポルペウスに近づき、闇の力が強くなるのであれば出るのは陰の属性を持つ魔物だけのはず。」  「ヒノカグツチとやらは違うのか。」  アレンがひくひくと鼻を動かす。  「陰でも陽でもない。  とにかく、戦闘力の低い召喚魔は呼ぶな。潰されるぞ。」  アレンが大振りのナイフに手を掛ける。  「コカドリーユにも手を出すなよ。」  そこに再びジューノの声。そして、  「ヒノカグツチと言い、ネフィリムと言い、己より階位の高いものまで使うか。」  そこに立つ司祭にも声を掛けた。  「これも我等が神のおかげ。」  「虎の威を借る狐か・・お前は。」  アレンが吐き捨てる。  ガープはその言葉に憎々しげに笑い、その笑いと共にまだ司祭の姿を採るガープの影の元から現れたのは人の躰にライオンの頭を持った中位の悪魔マルバス。  「コカドリーユはオーマとキンマモンで相手をさせる。  一本脚にはカワンチャを当てろ。小さい方の巨人には黄泉醜女で十分だ。大きい方にはアンフィスバエナを当てる。  サイゼルはスフィンクスと共にヒノカグツチの相手。  アレン、ライオン頭の相手をしてくれ。」  「俺は何も呼ばなくて良いのか。」  「呼ぶな、乱戦になれば命ある者を傷つける可能性がある。」 ジューノの指示で次々と相手が決まっていく中、司祭が本来の魔物の姿に戻り空中に飛び立とうとする。その翼にジューノが発した無数の氷の礫が穴を開けた。  「飛ばれては面倒だ。」  「先にガープを遣る。ライオン頭は頼んだ。」  アレンがジューノに声を掛け勇んで飛び出す。  「頼んだぞ。そいつを斃せばヒノカグツチは穢れたこの地での去就に迷い、一気に闘い易くなる。」  地面で苦しがるガープにアレンが迫る。その手の大振りナイフをガープのボロボロの羽根に付いた鉤爪が受ける。だが力量はアレンが上、徐々に追い詰められ大きな岩に背を付けた所をアレンの抜き打ちの“鬼切り丸”が斬り下げた。その瞬間、それまで炎の魔術を使って闘っていたヒノカグツチの動きが止まった。  「サイゼル、血を飲ませろ。」  ジューノの大声が耳に届き、ヒノカグツチの頭上まで飛び上がったサイゼルが己の掌に傷を付けその血をヒノカグツチの顔面に振りかけた。だが、燃えさかる炎にその血はすぐに蒸発しヒノカグツチの顔まで届かない。空中から落ちていくサイゼルをヒノカグツチが見つめる。意を決しサイゼルは手首を切った。迸(ほとばし)る血の内の何滴かがヒノカグツチの顔に掛かり彼はそれを舌を伸ばして舐めとった。  「ペレ。」  地面に足を付けたサイゼルはすぐに水鳥の翼を持った治癒の女神を呼び出した。呼び出された美しい女が血を流すサイゼルの手首に口吻をし、傷が徐々に塞がっていく。だが、大量の血を失った為かサイゼルの体力は落ちていた。  そこにヒノカグツチ。駄目だったか。覚悟を決めたサイゼルの前にヒノカグツチが膝をついた。サイゼルはペレの口吻を受けながらネフィリムを指さした。  ヒノカグツチの躰から業火が吹き出す。土を嘗め焦がし、真っ赤な炎が奔る。その炎がネフィリムを捕らえ、あっと言う間に焼き尽くした。  敵を失ったアンフィスバエナが長い躰を引き摺りジューノが闘うマルバスへと向かう。  サイゼルは体力とそれに連なる精(ジン)の回復の為スフィンクスを呼び戻し、ペレの腕の中で眠りに落ちた。  「大丈夫か、サイゼルは。」  「眠らせておけ。」  今はジューノと共にマルバスと闘うアレンが大声を上げ、それにジューノが答えた。  アレン達の闘いにヒノカグツチが割って入る。その腰から抜いた剣もまた炎を吹き出している。それを見たマルバスは土の中へと消えた。  一方、独脚鬼トケビと闘うカワンチャはサイゼルが眠りに落ちた為か消えかかっている。それを補いアレンがトケビを屠っていく。黄泉醜女とほぼ互角の戦いを続けていたエティンはジューノの氷の槍に貫き通され消え去り、コカドリーユはオーマとキンマモンそれに手の空いた黄泉醜女に全て叩き潰された。
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