奥の院の門を潜る

4/4
前へ
/126ページ
次へ
 ジューノが唱える魔法の力で氷の矢が飛びキュアの躰を刺し貫く。だがキュア本人は平気な顔をしている。  「やはりこの程度では無理か。」  魔術が通じなかったジューノの方がニヤリと笑う。  その横でサイゼルが大きく飛び上がりルグゼブ神にファルシオンを振り降ろした。  邪神の咆吼が谺し、六本の腕の内の一本が床に落ちた。  「あの炎の力がなくともそれ程ですか・・・では・・・」  キュアが邪神に掌を向けると邪神の胸が大きく膨らんだ。  そこに現れたのは邪神の躰に取り込まれたファナ。その躰が苦しそうに藻掻き、そして恍惚の表情を見せた。  地に降り立ったサイゼルの躰が前のめりになる。  そこに触手の一撃。サイゼルは大きく石壁に弾き飛ばされた。  「サイゼル、惑わされるな。お前の敵は邪神ルグゼブ・・奴を倒せ。」  もう一度サイゼルのファルシオンが空気を裂く。そして・・・もう一本邪神の腕が落ち・・そしてファナの腕に傷が一つ。苦痛の為身をよじり彼女の顔が女の悦びを表す。  サイゼルがグッと下唇を噛む。  「どうしました・・こんな母親は見たくないでしょう。  それとも母親もろとも我が神にとどめを刺しますか。」  キュアの歪む唇にサイゼルが憎悪を見せる。  「如何ですか・・憎むと言うことは。  人に平等に与えられたものは苦痛、哀しみ、嫉妬、憎悪、そして死、それだけ。  その感情の一つに身を任せるのは・・・」  「戯れ言はそれ位にしておけ。」  ジューノは己の胸をはだけた。  痩せさらばえた腕に精気がみなぎる。  「サイゼル・・こいつは俺の命に替えて屠る。だからお前は・・・」  だが、サイゼルは動かない。が、その躰からは青白い炎が立ち上がる。  「残念でしたね・・あの炎は・・・」  言いかけるキュアの躰の一部が吹き飛んだ。  「サイゼル、憎しみに身を任せるな。  ファナはもう助からん。  私情を捨てろ。」  サイゼル廻りから次々と触手が伸びサイゼルの躰を刺し貫く。それが見えるのかファナの眼がカッと見開かれる。  そして・・・  「思い出しなさい。貴方の本当の名前を・・神に貰った名を・・・」  今は邪神の一部となったファナが口を開き、そして苦痛の表情を見せる。  「か・・かあ・・さん・・・」  サイゼルの口から声が出る。  「そうです・・貴方の名を・・・そうすれば・・・」  ファナの表情が苦痛と快楽に歪む。  「どうしますか・・・このままでは貴方の母親は気がふれる。  私の一言でファナは解放されますが・・・」  「騙されるなサイゼル。」  ジューノは胸から生えた腕に両手を添えた。  「この腕は俺の心臓から直接生えている。それを引き抜けば・・」  ジューノは渾身の力を込め胸の腕を引き抜いた。  夥しい血と共にジューノの胸に空洞が開く。  「この心臓には呪縛の力が有る。それには何者も逆らえない。  そして・・・」  ジューノは消え行こうとする命の炎に片膝をつきながらもその腕をキュアに投げつけた。  心臓から溢れる血を辺りに振りまきながらその腕はキュアを捕らえた。  「後はお前の体をここにはないお前の魂ごと飲み込む。」  辺りのものがジューノの胸に空いた空洞に飲み込まれていく。  「さ・・サイゼル・・俺の命を・・・・」  キュアさえも胸の空洞に飲み込みジューノはバッタリと前のめりに倒れた。  「セ・・」  「そうです・・貴方の名は・・・」  「・・セイロス・・・」  その瞬間ファナの口から甲高い笑い声が漏れ、唇の端から涎を垂らした。  サイゼル・・いやセイロスの躰を憎しみの炎が包む。  ドク・・・セイロスの躰を貫いた触手が脈動し黒紫の液体がセイロスの躰に流れ込む。  その横で命が絶えたはずのジューノの躰がビク・・ビクッと痙攣を起こし床に手をついた。  「確かに貴方は勝負に勝ちました。」  立ち上がった男の顔はキュア。  「しかし、私を飲み込むには力が足りなかった・・血の濃さが・・・」  そしてセイロスに向き直り、  「如何ですかな憎悪に身を任せた感覚は。」  セイロスが光彩も瞳も真っ赤な目を上げた。  出口を急ぐアレンの手にコロンとスフィンクスの像が載っかった。  「サイゼル・・・」  後ろを振り向くアレンの顔から精気が消えている。  「先に出ろアレン。お前はもう限界だ。門の扉は俺が閉じる。」  ドルースは鬼切り丸を手にフラフラとした足取りのアレンの尻に蹴りを入れ、自身は門を閉じる歯車へと走り門の中に残った。  アレンの記憶にあるのはそこまで・・倒れ伏したアレンとミーアの体をそこからどこともなく運んだのはワーロックだった。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加