終章 アリアスの悲劇

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×  ×  ×  × フィルリアで有為の兵を集め、アリアスはルミアス王ブリアントとの面会を終えていたが、先代の言葉通り人間界の出来事には手を出さぬという返事だけを受け、失望を抱えながらロンダニアに入った。が、そこも参戦は成らなかった。  「レジュアスまで戻るか。」  「いや、その暇はなさそうだ。レイエスの報告ではカルドキアの兵は既に山脈を越え、モアドスになだれ込んでいる。  モアドスは自国を守る為ロマーヌと手を握り、ロマーヌ王インジュアスは総力を挙げモタリブスの北へ向かったとあった。」  「では我々は。」  「モアドスが戦渦に巻き込まれ、ロマーヌが起ったのであれば我々も躊躇することはない。モアドスに向かう。」  「待ってくれ。」  アリアスとオーエンの会話にジュドウが駆け込んできた。  「ウォレス様がやって来た。」  「お久しゅうございます。」  ジュドウの後ろに龍騎士団の長ウォレスの姿。  「貴方が遂に起ったと聞き、裂け谷から出て参りました。」  ウォレスの会釈にアリアスも会釈で返した。  「我が騎士団の龍騎士(ドラゴン・ナイト)三十騎、それに重歩兵三百は貴方の指揮の下に就きます。」  アリアスは感謝の意を述べ、  「龍騎士(ドラゴン・ナイト)の隊は先に山を越えケムリニュスの牽制をお願いします。  重歩兵の一団は私の指揮下に・・宜しいでしょうか。」  ウォレスはアリアスの提案に頷いた。  「早速兵を進めます。我々が征く先はまずモアドス。その間にモンオルトロスを越えてください。」  「承知。  尚、裂け谷の地下宮殿のドワーフ族とコボルト族も我等と同意、地下より山地の北を目指しています。」  その日のうちにアリアスとウォレスは次の目的地へと発った。だが行く先々で聞くのはロマーヌ、モアドス連合軍敗戦の悲報ばかり。遂にモアドス王国の首都モタリブスまで追い詰められたとあった。そこを攻める総大将は元アモール教の法皇ゾルディエール。一気にモタリブスを飲み込む勢いだった。  日が昇り、攻城作戦を始めようとしたときその朝日を背にサンクリフトの丘を攻め降りてくる旗がゾルディエールの眼に映った。朝日を透かしてみるその旗は蒼い炎・・アリアスの騎馬隊が丘を駈け降りゾルディエールの本陣を駆け乱した。  「退け。」  その一言が潰走の始まり、カルドキア軍はサルミット山脈の北まで追いやられた。  サルミット山脈を越えようとするアリアスの前に朗報が届いた。 「その節は済まなかった。」  目の前のルミアス王ブリアントが頭を下げた。  「あれから色々調べた。  その結果、カルドキアは邪神を奉じこの大陸を席巻しようとしていることが解った。そうなれば我が国ルミアスも塗炭の苦しみを味わう。  身勝手と想うかも知れないが我等も参戦させて貰う。」  アリアスの本軍、龍騎士団の重装歩兵、その後をルミアスの軍が追い、サルミット山脈を越え、何の抵抗もなくザクセンに入った。その後に続くのはロマーヌ、モアドスの連合軍のはずだった。が、肝心の連合軍はまだ山脈を越えてこない。  「暫く軍を外れる。」  言い残しアリアスは単騎東へと向かった。そこは小さな地図に記された地ホーリークリフ。そこには七賢者が住んでいた。  「光の子の名が解った。」  ラグラの言葉を皮切りにそこで光の子の名、“ロンギオスの炎”のありかを聞いた。  火の山ジュノンそこへ行けばあるいは・・・行き先は決まった。  行きに三日、一日をホーリークリフで過ごし、帰りにまた三日。その間に見たものは、黒煙を上げる集落とその中に倒れ伏す焼け焦げた人達。  後を任せたオーエンに問い詰めるとベヘルの仕業だという。  アリアスは一つ舌打ちを洩らしたがベヘルを呼ぶことはなかった。  そこに着いたのがルミアス王ブリアント。その場で作戦会議が始まった。 ブリアントには連合軍が山脈を越え次第ケムリニュスを攻撃することを依頼し、オーエンにはザクセンの守備を命じた。 貴方は・・と言うブリアントの問いに  「私は黒い森に入ります。」  そこに何が。とさらに問うブリアントには答えず、明朝発ちます。と頭を下げた。 自分の部下を纏めるジュドウ以下約千人が勢揃いをし、エルフの軍を率いるマーランもその中に加わった。  黒い森に入るとベヘルには魔術を使うことを禁じた。  そして尚も西を目指すアリアスの元に、  「俺も行くぞ。」  大声を上げレイエスが現れた。  「お前は・・・」  「モアドスとロマーヌの連合軍が山脈を越え、オーエンは最前線に就いた。それを受けお前との約束通りルミアス軍はケムリニュスに攻め入った。」  「戦況は・・・」  「戦況も何も、あっさりとケムリニュスは退き、ブリアントはケントスを目指している。」  そうか・・とだけアリアスは応えた  「こんな道を行かずとも、お前もケムリニュスに入ったらどうだ。」  アリアスは人払いをした。  「姿を見せられん。」  「どう言うことだ。」  「光の子の行き先が解った。俺が姿を見せればその後を邪神の軍が追う。その目を逃れる為、俺はこの森に入った。」  「これからどこへ向かう。」  「火の谷を登り、ジュノンへ。」  「そこにいるのか、光の子が。」  「そう思われる。  レイエス、今後も情報・・・」  「ここまでくれば情報収集はもう良かろう。俺もお前と共に行く。  それに大婆からの預かりものもある。」  レイエスはアリアスの前に真っ青な鎧兜と剣を運ばせた。  「勇者の鎧兜。それに破邪の剣だそうだ。」
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