二人の司祭

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 ランドアナ高原の南西の麓。ケムリニュスと呼ばれる地、そこにも一つの宗教が興りつつあった。  教祖はランプールと名乗っていた。  愛と自由を説き、一人一人の自由こそが平等の始まりだと唱えた。  「神の元の平等。サンクルス教はそう言う。  また、神はサンクルス教にだけあるようにも言う。  であれば、サンクルスの神を崇めぬ者には平等はないのか。  ・・・・・」  男はそこに集まった群衆に向け、尚も演説を続けている。そこへ、  「フランツの兵だ。」  群衆の後ろの方が騒いだ。  すると、ランプールの隣でニコニコと笑っていた男が群衆の騒ぎに紛れ、さっと自分のマントでランプールを包むと、二人はそこから煙のように掻き消えた。  そしてもう一人。立ち騒ぐ群衆を悠然と掻き分け、躰だけは頑丈そうな農夫が泰然とその場を立ち去った。  「危なかったな。」  ランプールが表情とは裏腹に凍り付くような眼を持つ男に話しかける。  別にと言うような顔で、その男がその言葉を受け流した。  司祭とだけ彼は呼ばれていた。  その男と共にランプールは村々を回った。  僅かずつではあるが信者の数が増えていった。  ある村でランプールは何時ものように説教をしていた。そこへ五人ほどのフランツの兵が現れた。  何時ものようにランプールは司祭に寄り添った。  だが司祭は何時ものごとくマントを翻(ひるがえ)すことはなく、そこに集まる人々に手を翳(かざ)した。  槍と剣を目の前に震えるランプールとは裏腹に、人々は手近な得物を手にその兵士達に襲いかかった  そして、兵士を殴り殺した人々はランプールの前に跪(ひざまづ)いた。  「頃合いでございましょう。」  尚も震えるランプールの耳元に隣に立っていた司祭が静かに告げた。  命が助かった安堵か、それとも命を危険にさらした恐怖か、ランプールはその司祭の声さえも聞こえぬ様(さま)だった。  「集え。そして戦え.自分らの自由のために。」  戸惑うランプールの横で、司祭が大声を上げた。  人が集まり、フランツの妨害にもめげず同じものを信じる一つの集団が出来た。  ランプールは自分の教えをアモール教と名付け、その集団内で自由な性愛をも奨励した。  それに惹かれてか、ならず者のような者達までもがその地に集まり、司祭の下、それらが徐々に兵となっていった。  ケムリニュスの片隅の寒村の人口が徐々に増えていく。  人々はその村の廻りに逆茂木を結い回し、独立を勝ち取ろうとしていた。  それから十年、聖都ケントスが出来上がっていた。
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