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第五章 崩壊
「頂上はもうすぐですか。」
「まだまだ、頂上に着く前に一仕事もあるからな。」
ワーロックの問いにジューノが答える。
「アンフィスバエナか。」
とのアレンの声を聞きつけたか、吠え声が起き、現れたのは真っ赤な目をした黒犬が五頭。
「見るな。」
ワーロックが叫ぶ。
「ブラックドッグ、霊力が高くないと、見ただけで死ぬかも知れませんよ。」
ジューノがワーロックの言葉に補足を加える。
「アレン。一頭頼む。」
そこにもう一度ワーロックの声。
「俺は大丈夫なのか。」
「私以外にこの妖力に耐えられるのはお前とサイゼル。」
「それに私ですな。」
言葉と同時にジューノの鞭が空気を切り裂く。
「呪符は。」
「要りませんよこの程度の魔物に。」
ニヤリと笑いながらジューノはもう一度鞭を振るい、もう一頭、魔物を切り裂いた。
アレンはナイフで、サイゼルは鬼切り丸で、ワーロックは水晶の杖で、妖力の割に階位(レヴェル)の高くない魔物は、それ程時間をかけずに倒し尽くされた。
「油断は出来ないぞ。この後もどんな魔物が出てくるかわからん。」
「まあしばらくは獣族でしょうな。」
ジューノがサイゼルの横で事も無げに言う。
そこに先に放っていたスクナヒコが帰ってきた。
スクナヒコは地面に地図を描く。この先で道は二手に分かれ、そしてまた一つになる。
スクナヒコは右手の道に立ち、獣族。と言い、左の道で魔族。と言った。そして再び道が交わった先で、アンフィスバエナ。と言った。
「力の獣族を選ぶか、魔力の魔族を選ぶか・・さてどちらにするかな。」
ジューノが笑う。
「何がいるかまでは判らんのか。」
ワーロックが尋ねるとスクナヒコはジューノに耳打ちをした。
「右の道には凶鳥シャックス、魔獣ウァプラ、凶獣モラクス。左の道には魔王ストラス、悪魔のザガンとブネ。」
ジューノがスクナヒコの言葉を伝えると、
「その魔物達・・引っかかりますね。」
と、ワーロックが首をひねった。
「アンフィスバエナの眷属ではなさそうだな。」
「“召喚の指輪”か。」
「ああ、アンドヴァリが持つ指輪の一つ。」
「他には。」
「スクナヒコもそこから先までは行けていない。」
「“召喚の指輪”・・面白いかも知れない。闇の魔王の事が解るかも知れない。」
と、ワーロックが声を上げた。
「闇の魔王・・・。」
「サイゼルが戦わなければならない相手の事だよ。」
アレンの驚き顔にジューノが応じた。
「そうなるとこの山に登る事にも、価値ある目的が出来た。後はどちらの道を通るかだな。」
「価値ある目的・・サイゼルにとって始めから価値がある事なんだよ。」
アレンがジューノを睨む。
「二つに分かれよう。」
何かを言い出しそうなジューノを押さえ、ワーロックが提案する。
「どちらかを残して、アンフィスバエナと戦う際に後ろを突かれては困る。だから両方を潰しておく必要がある。」
「回りくどい事を・・・では人選か、どう別れる。」
「戦闘力はアレンとサイゼル。この二人が優れている。魔術は私とジュノー。ミーアは攻撃の魔法は使えないからな。」
「サイゼルとは俺が組もう。」
ジューノの声に、
「いいや、お前とは俺が組むよ。俺はまだお前を信用していないからな。サイゼルと組ませるわけにはいかない。」
ジューノの顔色が僅かに変わったが、解ったよ。と了承した。
「ミーアとカダイはアレンと一緒に行ってくれ。ドルースはこっちだ。」
ワーロックが組み合わせを決めると、ジューノが言う。
「お前と俺、魔術に対する耐性は・・」
「私の方が上だろう。」
「では俺達が右側だな。」
「なるべく精(ジン)は使うなよ。」
そう言ってワーロックは左の道へ踏み込んだ。
「サイゼル、念のためにブルベガーを呼んで置いてくれ。私はアレンほど鼻が効かん。」
ワーロックがサイゼルに笑いかける。
そのブルベガーを先頭に道を進むと、すぐにブルベガーに反応が現れる。
魔物、雄牛の姿で直立し、背中に鷲の羽根を備えている。
「ザガンだ。聖なるものを冒涜する力が有る。」
「なんだそりゃ。」
ドルースが素っ頓狂な声を上げる。
「つまり武器の能力が落ちるという事だ。倒しにくくなる。」
ワーロックの言葉に誘われたか、サイゼルの前の土が盛り上がる。
「ハオカー・・」
ドルースが慌てて飛び退く。
主人の危機を救う為か妖鬼が前鬼、後鬼を従えそこに立った。
「力が違う。すぐに片付くよ。」
ワーロックは相好を崩し、手近な石に腰掛けた。
「だがこいつが使う魔物だけは気をつけろ。」
ワーロックが言う側からインプが何体も現れる。それを見たワーロックが、仕事、仕事。とサイゼルとドルースを揶揄する。
インプが放つ電撃は全てワーロックが阻止し、その間にサイゼルとドルースが人間の子供大の魔物を倒していく、ザガンはと目を向けると、既に前鬼の金棒に叩き潰され、自分がいるべき地獄へと帰っていた。
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