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ブルベガーが恐怖に飛び退き、その前の土が盛り上がる。
「我が領地を侵すものは誰だ。我が領地を侵せば死あるのみ。」
おどろおどろしい声がまず聞こえてくる。そして青白い鬼火が立ち、それが白い布をかぶった姿になっていき、ふわふわと宙に浮く。
「ゴーストです。ここで死んでいった者達が悪霊となって現れている。」
「何が出来るんだ。」
「生けるものに取り憑き、その精神を蝕んで行く、低級な悪霊だ。気持ちさえ強く持てば簡単に倒せる。」
ドルースの問いにワーロックが答える間に悪魔の本体が徐々に形を成していく。
「我が名は魔王・・」
ゴーストを倒しながら声のする方に目をやる。
「ストラス。」
現れ出たのはピグマイオイのドルースよりもやや小さい、冠をかぶった濃い灰色のフクロウ。
「魔王と言うからどんなにすごいやつが出てくるかと思えば・・」
ドルースがその姿を見て笑う。
「笑うか。」
フクロウは宙を飛び鋭い爪でドルースを攻撃する。
「ちょろい、ちょろい。」
ドルースは笑いながら、その攻撃を手にした盾で簡単に躱していく。
「おのれ」
フクロウがひときわ大きく羽ばたき天空に登る。
フクロウの嘴がクワッと大きく開き、火の玉が吐き出される。
「あちっち・・・」
と言いながら、ドルースはクナイを投げたがそれは簡単に躱された。しかしその躱した先に雷(いかずち)が走る。
黒焦げになったフクロウが地に落ちボロボロに崩れて消えた。
「なんだか弱っちいのばかりだな。」
ゴーストを倒してしまい、ドルースが笑う。
「アンドヴァリの階位(レヴェル)がそれ程高くないせいです。
私ならもっと高級な悪魔を呼びだせる。そうすれば・・・」
ワーロックが意味ありげに笑った。
広場に出ると、
「おう。」
と声が掛かる。その声の主はアレンだった。
「何体倒した。」
「二つ。」
「こっちもだ。」
「三体ずつ居たんじゃなかったか。」
アレンとドルースの会話に吠え声が割り込む。
「一緒に出るようだな、アンフィスバエナと。」
ジューノが緊張を見せる。
もう一度吠え声。ズルズルと四本足の間の腹を地に着け、背には羽根さえ持っている十メートルもあろうかという巨大な蛇、しかも尻尾はなく胴体の両端に頭を持っている。その両隣に人の顔に角を生やした猛牛モラクス。それに、龍の様な体に肉太い手足と人の頭が生え、その両肩には狼と鷲の持つ悪魔ブネ、その前には無数のその使い魔ブニを従えている。
「総動員だな、お互いに。」
言いながらジューノが式札(しきふだ)を構える。
サイゼルの前では土が盛り上がりハオカーが前鬼と後鬼を従えて立ち上がる。
「強いぞ。それに数も多い。召喚魔を全て呼び出せ。」
叫びながらワーロック自身も、グリーンマンを呼び出す。
「アンフィスバエナに対抗できるのはサイゼルのスフィンクスぐらいだ。頼んだぞサイゼル。」
「斃すなよ、アンフィスバエナは。
俺の式神の階位(レヴェル)はそれ程高くない、奴は俺の式神にする。」
ジューノがそれに被せる。
道の後ろからはダーエワやらメルコムやらの人形の悪魔と一緒に餓鬼やらマンイーター共が無数に現れる。
「ドルース、カダイ、ミーア、後ろは任せる。」
ワーロックの声に、
「数が必要ですな。」
ジューノはまず一枚の式札(しきふだ)を投げた。そこからは天之魔雄神(あまのさくがみ)が五体の烏天狗を引き連れて現れる。
「こっちは・・・」
前方に投げた三枚の式札(しきふだ)からは女の躰に幾何学模様が入った護神キンマモンと太った体に小槌を持ったヒトコトヌシ。そしてもう一体は龍王ノズチ。
「そんなものが使えるなら最初から使えよ。」
それを見たアレンが悪態を飛ばす。
「こいつ等の階位(レヴェル)はそれ程高くない。だからアンフィスバエナを欲したのだ。」
ジューノがアレンに怒鳴り返す。
「こんな化け物をか。」
「俺なら使える。
ごちゃごちゃ言わずに火鼠を呼んで後ろの魔物を倒せ。」
サイゼルが呼び出したはずのスフィンクスはまだ現れない。
「精(ジン)の問題か。」
ワーロックが首を傾げる。
数多く現れたブニにはワーロックの魔法とアレンとネヴァンがあたり、ブニをかき分けブネにはモムノフが向かう。
モラクスとノズチの力は互角、お互いが傷ついていく。相打ちにならぬよう、サイゼルがそれを援護する。
アンフィスバエナはグリーンマン、キンマモン、ヒトコトヌシそれに黄泉醜女が束になっても揺るぎない強さを誇っている。かろうじて効果を上げているのはグリーンマンの攻撃のみ。
そんな苦戦の中、中空に稲妻が走る。
一撃の落雷と共に現れたのはスフィンクス。
だがその瞬間にサイゼルがガックリと膝を着いた。
「鍛えて貰わんといかんな・・精(ジン)を」
ジューノが舌打ちでもしたそうな顔をした。 サイゼルの姿を危機と見たのか、ハオカーは他の魔物はほったらかしにサイゼルの元に向かった。
前鬼と後鬼が棘の付いた金棒でブニを薙ぎ倒し、ハオカーの戦斧(トマホーク)がモラクスの頭を叩き割った。
その先でスフィンクスとアンフィスバエナが対峙する。
「二種の獣族の階位(レヴェル)はほぼ同じ、アレン援護してやれ。」
ワーロックがアレンに声を掛ける。
「俺が行くよ。あいつじゃあアンフィスバエナを斃しかねないからな。
アレン、お前は後ろの魔物を斃せ。」
「数が多いんだよ。」
「何のために皆が戦っている。協力しろ。」
「お前こそなぜ魔術を使わない。」
「乱戦の中で使うと仲間も傷つけるんだよ。そんな事も解らんのか。」
「何を。」
「言い争いはそれ位にして、敵に集中しろ。」
アレンとジューノの言い争いにワーロックが割って入った。
その間にスフィンクスとアンフィスバエナは背中の羽根を羽ばたかせ宙に浮いた。
「飛ばれちゃあ事が面倒になる。」
ジューノの三本目の手が印を結ぶ。と氷の槍が宙を飛びアンフィスバエナの透き通った羽根を突き通した。
アンフィスバエナの高度が落ちるのに併せスフィンクスも上空から舞い降りる。
足が地に着くと同時にアンフィスバエナの前後の口が開く。
「毒を吐くぞ。」
それを横目に見たワーロックが慌てたように叫ぶ。
「心配ご無用。」
ジューノの体の前に霧が密集する。
アンフィスバエナの毒の息は全てその霧によって浄化された。
凶獣が神獣スフィンクスのライオンのような前足に噛みつく。
藻掻きながらも神獣は鷲の爪を持った後ろ足で凶獣の腹を切り裂く。その中に輝くものが。
「アレン、あれが取れるか。」
ジューノが大声でアレンを呼ぶ。
その声に応じたアレンが凶獣の隙を見図りアンフィスバエナに肉薄する。
確かに見える。毒にまみれた腹の中に輝くものが・・
「それを穫れ、アレン。
サイゼルには打って付けのものだ。」
再びジューノが大声を出す。
アンフィスバエナの牙を躱し、爪を躱し、毒の息さえ躱してアレンが裂けた腹の中に己の腕を突っ込む。
硬い感触が握った手に拡がる。
熱い・・とてつもなく熱い。
「いつまでも握っているな。
こっちに投げるんだ、お前の手が焼き尽くされるぞ。」
言われるまでもなくアレンは手にしたものをアンフィスバエナの体の外に投げ捨てた。
その時にはもうジューノは三本の手を駆使して印を切っていた。
円に六芒星が輝きながらアンフィスバエナを包む。
「捕った。」
ジューノの声の瞬間アンフィスバエナは一枚の呪符に変わった。
「陰の凶獣まで身に帯びるか。」
「この一枚だけだ。これ以上の闇は俺の精神が崩壊する。」
ワーロックに笑いかけながらジューノはその呪符を懐に入れた。
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