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「さて、いつまで眠るやら。」
戦いが終わっても昏々と眠り続けるサイゼルをジューノが見下ろす。
「今のままの精(ジン)では心許ないな。」
ジューノがミーアを見る。
「お前は大地の精(ジン)を使えたな。」
ミーアが頷く。
「俺の手を握れ。そして大地の精(ジン)を集めろ。」
ジューノは胸の乾涸らびた腕を露わにした。
ミーアが大地に手を突き、恐る恐るその手を握るとジューノの胸の手が徐々に精気を帯び膨らんでくる。
「権能(パワー)の差か、時間が掛かるな。」
それでも小一時間をかけジューノの腕はパンパンに膨れあがった。
「お前ならこの精(ジン)を光の精(ジン)に換えられるだろう。」
今度はワーロックがジューノの胸から生える手を握った。
「サイゼルの精(ジン)の絶対値を増やしますか。」
「ああ、こいつが力をつけるまで悠長には待っておれん。」
一度乾涸らびてまた力がみなぎった手をサイゼルの胸に当てる。
サイゼルの胸が大きく膨らみはち切れんばかりになり、ジューノの腕は元通りに乾涸らびた。
「無理はしなさんな。」
ワーロックが横から注意を与える。
「こいつの容力ではまだこれが精一杯か。」
フーッとジューノが大きく溜息をついた。
「疲れた。俺もだがミーアもそうだろう。今日の道程(みちゆき)はここまでのようだな。」
ジューノは倒れ堕ちるようにその場に突っ伏した。
「どうしたんだ。」
アレンがワーロックの顔を見る。
「サイゼルの能力を上げるために自分の精(ジン)を使った。
ミーアの権能(パワー)で大地の精(ジン)を集めさせ、それを私に渡した。
それを私が光の精(ジン)に換えたのをまた吸い取り、サイゼルに与えた。
計り知れない精(ジン)を使ったはずだ。
今日は静かに寝かせてやれ。この三人の権能(パワー)を考えれば明日の朝には回復するはずだ。」
ワーロックはサイゼル、ジューノ、ミーアを一所に集め結界を張った。
朝日が昇ると、アレンは心配そうに結界の回りをうろついた。
「煩(うるさ)い奴だ。もう少し落ち着けないのか。」
ジューノが渋そうな眼を開ける。
アレンはジューノの言葉に舌打ちだけを漏らす。
「心配するのは解るが、もう少し寝かせておけ。目を覚ませばサイゼルはもっと長い間中位の神獣スフィンクスを召喚できるようになる。」
「中位・・あれでか。」
「ああ、神獣としては上位の部類に入るが、全体としては丁度真ん中の階位(レヴェル)、中位になる。」
「お前が捕らえたアンフィスバエナは。」
「同じようなものだ。俺が使えるのは中位の魔物まで。この小僧は精(ジン)さえ満たせば上位の魔物の中でも、中級のものくらいまでは使えるはずだ。」
「位とか級とか・・なんだそれは。」
「階位(レヴェル)の順位の事だ。
そんな事より、朝飯の準備は。」
「これだ。」
と、アレンは干し肉と木の実を差し出す。と、またかという顔でジューノが舌打ちをした。
朝も遅くなってミーアが目を覚まし、昼近くにサイゼルの目が開いた。
起き上がるサイゼルの手に硬い物が当たった。
(これは・・・)
不審な顔をする。
「神剣ファルシオン。陽の因子を持つ物だけが手にする事が出来る剣だ。
陽の因子を持たない物が触ると焼き尽くされる。
お前には打って付けの剣だよ。」
ジューノがその長剣を手にするように促す。
サイゼルが鬼切り丸を見る。その姿を見てジューノは言う。
「アレンにやれ。
まあ、今のアレンには使いこなせないだろうがな。」
(ドルース)
サイゼルが地面に小枝で書く。
「権能(パワー)を考えると宝の持ち腐れになる。あいつでは鬼切り丸本来の力は発揮できない。」 「俺でも一緒なんだろ。」
「刀に精(ジン)を吸われるだけだ。長くは使えん。それだけだ。」
「じゃあドルースの武器は今のままか。」
「お前の大鎌をやればよかろう。ドルースの権能(パワー)なら充分使いこなせる。」
「じゃあ俺は、長く使えない剣だけか。」
「お前の権能(パワー)なら、その梵字のナイフで下位の魔物には充分対抗できる。」
「ややっこしいな。」
言いながらアレンはドルースの身長より大きな大鎌を渡す。
大鎌を担ごうとするドルースの姿を見て笑いを堪えるアレンを目にし、
「こんなもん要らん。」
と、ドルースはそれを投げ捨てようとした。
「要らんなら、ここから去れ。
それしきの事で怒りだし、和を乱す者はサイゼルの側には要らん。」
ジューノがドルースを睨み付ける。
「チッ・・解ったよ。」
仕方なさそうにドルースは大鎌を背負った。
そこへ先の偵察に行っていたスクナヒコが帰ってきた。
「この先、大した魔物は居ないようだ。
これから先はドルースを先頭に行って貰う。大鎌を使う訓練だ。」
ジューノの言葉をワーロックはニコニコと笑いながら聞いている。
「サイゼルもだ。お前の精(ジン)の量は増やした。だがまだまだ足りぬ。
鍛えろ。権能(パワー)が有る者は、その強さに応じて精(ジン)の容力は増えていく。
お前が戦う相手が何者であるかはまだ解らない。だがそれに負けぬだけの力を蓄えるのだ。」
ジューノのその言葉にサイゼルが大きく頷いた。
神族、魔族、妖族、鬼族など低位ではあるが多くの魔物を相手にした。その間ジューノとワーロックは知らぬ顔を決め込み、危ういときにはアレンが手を貸し、殆どの魔物をサイゼルとドルースが我が肉体だけで斃し、負った傷はミーアが癒やしていった。
「もうすぐ頂上だ。最も高い峰の頂上のすぐ下に風穴があるらしい。そこに居るのがアンドヴァリ。
もう一度大きな戦いを覚悟しなければならないかも知れん。
今日と明日、英気を養い明後日にその風穴を目指す。
先ずはゆっくりと体を休めろ。」
ジューノは自分が皆の統率者でもあるかのように話した。が、それに誰も文句は言わなかった。
その間に集めた魔物は、ドルースは数を使える妖鬼イヒカ。サイゼルもまた数で勝負できる地霊カワンチャと、癒しの魔術が使える女神ペレ。ミーアは力の魔物、破壊神オーマを僕(しもべ)とした。
もうすぐ風穴。休息を取るのはその前の平場。
夜が明ける頃、生くさい臭いがあたりに漂った。現れたのは不死人(アンデツド)グールとその女版とも言える腐った死体グーラー、それを率いるのは死神キュリオテス。そして本命は堕天使メリクリウス。
「せっかくアンドヴァリがこの世に混乱をもたらそうと言うに・・邪魔は許さん。」
おどろおどろしい声でメリクリウスが毒づく。
「ドルース、使ってみるかイヒカを。ミーアはオーマの力を試せ。」
ジューノが指示を出す。
「サイゼルは自力でメリクリウスを斃せ。アレンはその援護だ。」
そう言うジューノ自身はワーロックと共に傍らの石に腰掛け、彼らの戦いぶりを見守るだけのようだ。
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