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陥穽
ザクロスはバルハードを追いプリンツの勢力下に入った。どういうわけか肩の負傷は既にそれ程気にならなくなっていた。それにどれだけ走ろうと息も切れない。
黒い疾風のような彼の姿に武器を向ける者達を薙ぎ倒し、バルハードが去ったであろうギャロを目指す。
そんなザクロスの前に一人のしわくちゃの老婆が現れた
「何処に行きなさる。」
ザクロスは答えもせず走り過ぎようとする。
「待たらっしゃい。
死の臭いがする。」
その言葉にギクリとし、ザクロスは立ち止まった。
「お前さんどれだけの命を殺めた。
その鎧は幾人の血を吸って居る。」
そんな事かとザクロスは舌打ちをした。
「脱ぎなされ、その鎧を。
捨てなされ、その兜を。
怒りと憎悪を身に纏って居るときにはその鎧はお前さんの味方にもなろうが、いずれはその身を亡ぼすもの。
早々に捨てなされ。」
「ごめん。」
ザクロスは何とはなしにその老婆に頭を下げ、その場を去ろうとした。
その目の前で、老婆が光に包まれ、
「道に迷いし時、儂を求めなされ。
儂はいつもお前さんと共にある。」
と、意味不明な言葉を残し、老婆は消え去った。
今のは・・・老婆の事を考える。と、ズキッと肩の傷が痛んだ。それはザクロスにバルハードに対する壮絶なる復讐心を思い起こさせた。
走る、走る・・走る。
血祭りに上げるべきバルハード。その姿を追い求め、遂にプリンツの聖都ギャロに入った。が、ようとしてバルハードの行方は解らない。
ギラギラと殺気だった目で街中をうろつくザクロスをプリンツの兵が怪しみ、誰何する。渡りに船とばかりにザクロスはその兵を捕まえた。
バルハードの行方を尋ねる。その兵は知らないと言う。背格好を伝えても見た事もないと言う。業を煮やし兵の肩に槍を突き刺し抉る。それでも答えは同じ。
(道に迷いし時・・・)
兵士の死骸を下に見ながら、ザクロスは老婆の言葉を思い出した。
「どうなさったかな。」
後ろからする声に振り向くとそこには以前とは違う老婆の姿。
「道に迷いなすったか。」
その言葉にザクロスが頷く。
「お前さんが探す者はここにはいない。
その者はポルペウス奥の院、そこにいる。」
それだけを言うと老婆は漆黒の煙の中に消えた。
ポルペウス奥の院。そこは一人の司祭が民衆を集め立て籠もっているという。そんな所へなぜ・・・バルハードはプリンツの回し者ではなかったのか。微かな疑念を振り捨て、ザクロスは聖なる山と呼ばれるポルペウスへと歩を進めた。
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