油断

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油断

 それからしばらくはコトミさんは現れなかった。  それでも剣は決して油断をせず、毎日学校の行き帰りは送ってくれるようになった。 「ねー、剣、引っ越しはしないの?」  俺が聞くと、剣は疲れたような顔で。 「今、動けばコトミに感づかれる可能性が高いからな。今はここで身を潜めておくのが得策だと思う。でも、まあそのうちに引っ越しはせざるをおえないだろうけどな」  剣は本当に気をつけてた。  一番に俺を守ることを考えてくれていた。  剣は油断を決してしなかったけど、俺は何処かで油断してたんだと思う。  それは本当にコトミさんの怖さを知っている剣と俺の違いだったのかもしれない。  その日は土曜日で、俺は学校が休みだった。  剣は父さんの用事で会社に顔を出してから、俺の家へと来ることになっていた。  ……昼はデリバリーのピザでも取ろうかな?  つい最近近くに新しいピザ屋ができて、その店が美味しいと評判なので、ずっと気にかかっていたのだ。  俺はベッドに寝転がり、チラシを見ていた。 「う~ん、どれ頼もうかなっと」  一人呟いたそのとき、インターホンが鳴った。 「あ、剣が来たかな?」  俺はうかつにもカメラを確かめることなく、鍵を開け、ドアを開いてしまった。 「いらっしゃ――」  そして俺は息を呑む。  そこに立っていたのは剣ではなく、コトミさんだったからだ。
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