笑顔の仮面の下の憎しみ

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笑顔の仮面の下の憎しみ

「こんにちは、信一くん」  そう言ってにっこり笑うがやっぱり目が笑っていない。 「どうして、俺の家が――」  聞きかけてやめた。  俺の高校まで突き止めた女性だ。俺の家も突き止めてもなんら不思議ではない。 「……何しに来たんですか? 剣はここにはいませんよ」  俺はコトミさんに言った。本当はもうすぐ剣がここにやって来る。剣とコトミさんを会わせるのだけは嫌だった。 「今日はあなたに会いに来たのよ、信一くん」 「……俺に?」 「そう。いい加減我慢できないのよ。剣はあなたのことなんか本気じゃないことは分かってるけど、遊びでも剣が他の誰かに目をやるのが耐えられないの。剣の彼女として当たり前の主張でしょ?」 「もうやめなよ、剣はあんたのこと迷惑がってんだから。いつまで剣に付きまとうつもりだよ!?」  俺が言うと、コトミさんの顔から笑顔の仮面が剥がれた。 「本当に生意気なガキね」  低い声で言うと、コトミさんは下げていたバッグの中からカッターナイフを出してきた。 「信一くん、顔だけは綺麗なのはとりあえず認めてあげるわ。だから剣も遊び相手にえらんだのでしょうけど。……その綺麗な顔、これで傷をつけてあげる」  そのまま俺の方へと向かって来た。  完全に不意を突かれた俺は、右手の手のひらに熱い痛みが走るのを感じた。 「残念。次はちゃんと顔を切ってあげるわ」  憎しみに満ちた瞳が俺を睨みつけ、コトミさんはカッターナイフを振り回し始める。  その度に俺の手のひらや手首、洋服などが切られて行く。  コトミさんにはもう清楚な面影などなく、ただ俺に対する憎しみの塊だけになっている。  怖い、と思った。  今まで生きて来た中で、こんなふうに本気で誰かに憎しみをぶつけられたのは初めてだった。  恐怖で涙が零れる。 「泣いたら許されるとでも思ってるの? 馬鹿な子ね」  俺のことを馬鹿にしたように笑うと、コトミさんは思い切りカッターナイフをかざした。  刺される!  と思った次の瞬間。 「信一!!」  俺を呼ぶ剣の声が耳に届いた。  そして剣は俺とコトミさんのあいだに体を滑り込ませて、俺を守ってくれる。  俺を刺そうとしていたコトミさんのカッターナイフが剣のスーツを切り裂く。 「コトミ、いい加減にしろよ! 信一を傷つけるなんて許さないからな。……信一、大丈夫か!?」  剣は激しい怒気を含んだ声で、コトミさんを怒鳴りつけてから、俺の方を見て、心配そうに聞いて来た。
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