始まり

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始まり

 社長室の重厚な椅子は、少年のいまだ成長途中の体にはあまりにも大きすぎた。  その似つかわしくない光景に、一瞬、沢口剣(さわぐちけん)はフリーズした。 「……おまえ、誰だ?」  それでも何とか自分を立て直し、剣が問いかけると、少年は大きな目をあからさまに吊り上げて睨みつけながら聞き返してきた。 「あんたこそ、誰だよ?」 「俺は今日からここで秘書として働くことになった――」  剣が戸惑いつつも答えようとするのをその美少年と言ってもいい相手は遮り、今度はにんまりと笑う。 「あ、あんたが親父の決めた秘書か」 「は?」  親父? ということは、こいつ、社長令息か? でも、なんで息子がいるんだ?  剣は端整な顔を訝し気に歪めて、首を傾げると、社長令息はますます笑みを深めたまま自分の名を名乗った。 「俺は高井田信一(たかいだしんいち」  そして続けてこう言ったのだった。 「今日からあんたの上司だ」
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