飼育小屋のエデン

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飼育小屋のエデン

 俺様はウサギである。名前はもちたろう。  でもってつい三日前、突然ばたんきゅーとお亡くなりになったばかりの幽霊様である。人間が幽霊になるとは聞いていたが、まさかウサギの俺様が幽霊になるとは思ってもみなかった。生前に悪行を成した覚えもないので(まあ何度か飼育小屋から脱走したり、柵をかじってボロボロにしたことがあるくらいだ)、多分そのうち天国に行くのだと思われる。  天国なんてほんとにあるのか知らんけど。  てゆーか、ちゃんと現世に取り残されないでお迎えが来てくれるのかちょっと不安ではあるのだけど。なんといっても俺様、ウサギとして見てもかなりチビだという自覚がある。ちくしょうめ、これでも一応オスだってのに。 「おーもちたろう、お前まだ此処にいんのか」  此処は小学校の飼育小屋。俺がお月さんを見上げてタソガレてると、同じ飼育ウサギ仲間の“まゆげ”がやって来た。  なんでまゆげ、なんて名前なのかって?茶色のウサギなのに目の上のあたりになんか白い斑点があるせいで、眉毛に見えるかららしい。いくらなんでもネーミングセンス酷くね?と思うが本人は全く気にしてないようだ。むしろこの名前と見た目のおかげですぐ飼育係に覚えてもらえて餌をたらふく貰えるので満足しているとのこと。  ちなみに、こいつもオス。俺と一歳違いなので、結構なオッサンのウサギである。 「すげぇ、ウサギも幽霊になるんだな!俺が人間なら写真撮ってインスタとやらにアップしてやるところだぜ!」 「やめんかい!つか、幽霊って写真に写るのか?」 「写るらしいぞ。この学校の七不思議をよくガキどもが話してるのを聞くけど、女子トイレで写メったらなんか白い影みたいのが写ったらしい!で、即座にツイッターにアップしたと」 「最近のガキは幽霊泣かせだなおい……」  怖がらせたくても、それより前に面白がられてネットにアップされてしまうご時世とは。この学校にベテラン幽霊の花子さんとやらがいるのなら、わりと本気で転職を考える頃合いかもしれない。今の子供たちを驚かすのは容易なことではなさそうだ。 「まあ、お前が幽霊になったのは残念だがな。話が出来るってなら丁度いいや。いろいろ聞かせろよ、幽霊になった感想をよ」  よっこらせ、と俺の隣に座るまゆげ。  でっぷりした肉ともふもふの毛か飼育小屋の網に見事に食い込んでいる。太りすぎだろ、と俺は心の中で呆れた。食うだけ食って寝てばかりいるからこうなるのである。
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