とどける、とどける。

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 盗撮用のカメラにばっちり記録されたその映像。よもや夫婦は、自分達の修羅場が無関係の第三者の酒の肴になっているなど考えもしていないのだろう。 「あそこの旦那が浮気してるのは事実だしな。俺の元会社の同僚の叔父さんなんたけどさー。たびたび後輩の女と肩組んで歩いてるのが目撃されてっし」  だからさ、と。悪気など欠片もないと言うように、水谷は告げる。 「奥さんに教えてあげたら楽しいことになるだろうなーって。ちょっとバレ方が生々しすぎたかねえ?」 「いきなり手作りアップルパイは酷いでしょ水谷さん!」 「よく言うぜ、わかってて届けて、カメラまで仕掛けてくれたくせによ」 「まぁねー」  人の不幸は蜜の味。本当によく言ったものである。俺がにやついていると、彼はブラウザを開いてネットニュースのページを見せてくれた。――東京都×区に住むとある主婦が、夫の浮気相手を会社で待ち伏せして刺し殺した、というニュースを。被害者の名前は、秋山千紗。ならば犯人が誰であるかなど語るまでもあるまい。 「新しい依頼、あるんでしょ?次はなんですか?」  俺がわくわくして気持ちで尋ねると、水谷はほい、と一枚の手紙を差し出してきた。今度はどうやら、“ある妹への手紙”を、“兄のフリ”して届けてやろうということらしい。 「仲睦まじい兄妹と思いきや、実は兄が妹の変態ストーカーしてました!なんて最高に気持ち悪くて楽しいことになりそーじゃね?もち、ばーっちり妹ちゃんの盗撮写真入ってっし!今度は盗聴機でいいから、また仕掛けてきてよ!」  普通の配達業者や、郵便業者を使わない人々には必ずなんらかの事情がある。公の機関ではまずいような、あるいは差出人を偽装したいような、そんな理由が。  ゆえに俺のところに依頼される仕事には、どこかやましいところのあるものも少なくない。  特に人を不幸にしたい、人を貶めたいと願う依頼者のなんと多いことであるか。 「ありがとうございまーす!じゃ、今から届けに行ってきますね!」  俺は今日も笑顔で答えるのだ。  俺がこの仕事を始めた最大にして本当の理由――人の不幸や破滅を間近で楽しむ、という目的を叶えるために。
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