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アラモがいなくなった。
確かに私は、アラモに対して強く当たることもあった。仕事の不満はいつだってアラモに愚痴っていた。アラモはおとなしく聞いていた。特に嫌なことがあった日にはそのフサフサした毛をひっぱたり、弾力のある腹を殴ったこともあった。蹴り飛ばして、危うく窓から落としそうになることもあった。けれども毎日餌は与えていたし、何よりあいつが一人で外の世界で生きていけるとは思えない。きっとどこかに隠れているに違いない。
それよりも今は持ち帰った仕事を片付けるのが優先だ。業務改善だかなんだか知らないが、退社時刻になると勝手にパソコンが落ちるシステムになってしまった。減らすのは勤務時間じゃなくて仕事量にしてもらいたい。
眩しい光で目が覚めて、徹夜で仕上げた資料をカバンに突っ込み、パンを1枚食べて会社へ行く支度をした。ドアを開けると私より先に黒い影が家を飛び出した。アラモはずっと靴箱の陰に身を潜めていたのだ。追いかければ捕まえられたかもしれない。だがそうしようとは思わなかった。
会社に着いて、私は上司に資料とともに辞表を出した。
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