恋愛成就のタツノオトシゴ

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「そうかもしれないけど、でもそんな事を言ってたら、他の人に先輩を取られちゃうよ」 その先輩が好きな人は、きっとエリ以外にもいるだろう。 早くしないと先輩が取られてしまう。 「わかってるよ。それで思い出したのが、あの修学旅行で買ったお守りでさ」 そうして、エリはポケットからお守り付きの鍵を取り出す。 「あの後、ネットで調べてみたんだけどさ。このお守りって、一日一回、毎日、お守りに宿っている神様に向かって願い続けていると、願いが叶うんだって」 どうやら、適当に自室の机の中に放り込んでいた水莉と違って、エリはお守りについてきちんと調べていたようだ。 「そうなんだ。持っているだけで効果があるんだと思っていた」 「私も最初はそう思っていた。でも、お守り側からすれば、願わなければ持ち主が何を願っているかわからないだろう」 「確かに……」 「その話を知ってから、私は毎日このお守りに祈ってる。早く先輩が元気になって、両想いになれるようにって」 いつになく真剣なエリの顔をじっと見つめていると、誰かが話しながら階段に近づいて来るのに気づく。 「と、とにかく、水莉も碓水に会いたいならお守りに祈ってみなよ。神様が願いを叶えてくれるかもしれないよ」 水莉から離れると、エリは教室に戻って行く。 (あのエリちゃんにも、好きな人がいたなんて……) クールで陸上以外、興味が無さそうなエリにも好きな人がいた。 (私が抱えているこの気持ちも、もしかして) ーー恋なのかな。 水莉の目の前を数人の女子生徒が話しながら通り過ぎて行く。 話題は彼氏についてだった。 今までは興味がない話題だったのに、何故かこの日の水莉は気になってしまったのだった。 自宅に帰ると、水莉は早速自室のポスターの前に飾ったままにしていたお守りに向かう。 (もしかして、エリちゃんが碓水君に気付いてくれたのもお守りに祈ったからなのかな?) もしそうなら、ますますお守りに祈らなきゃ。 碓水君に会えるその日まで。 水莉はお守りの前で、また両手を合わせて、目を閉じる。 「お願いします。神様」 もう一度、碓水君に会わせて下さい。 この気持ちが何なのか、知りたいのです。 祈り終わって目を開けると、身体がブルリと震える。 外を見ると、空からは白いものが絶え間なく降っていた。 「あっ、雪だ」 外はいつの間にか雨から雪に変わっていた。 窓を開けて手を伸ばすと、灰色の空から落ちくる雪の一つが掌に落ちてくる。 触れた途端すうっと水に変わるその雪を眺めていると、不思議な気持ちになる。 「雪が溶ける頃には、会えるよね」 大会があるのは三月。その頃には雪も溶けているだろう。 ーーこの想いは、雪と一緒に溶けたりしないよね。 必ず会うんだ。碓水君に。 それまでは、この想いを無くさないように、大切に胸に抱えていよう。 窓を閉めて振り返ると、お守りに目がいく。 お守りに書かれたタツノオトシゴのシルエットの内、左側のタツノオトシゴが、心なしか色づいているように見えたのだった。
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