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「ねぇ〜。水莉ってば」
冬になったばかりのある日。
雨宮水莉は、友人の声で振り向く。
「あれ? イッちゃん、どうしたの?」
声を掛けてきたのは、水莉の友人でもあるクラスメイトのイチカことイッちゃんであった。
「どうしたの、はこっちのセリフだよ。修学旅行に行ってから、ずっと溜め息を吐いてばかりじゃん」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。水莉が溜め息を吐いてばかりだからほら。冬なのに雨が降ってきたよ」
教室の窓から外を見ると、空からは幾つもの雨粒が落ちてきていた。
生まれた時から雨女と呼ばれてきた水莉でも、冬の日まで雪ではなく、雨を降らした事はこれまでなかった。
ずっと、悩んでいるからだろうか?
「そ、そうだね……」
「なになに、恋の悩み? このイチカに任せなさい!」
あの修学旅行で、恋愛成就で有名なお守りが売っている土産物屋に行きたがっていただけあって、イッちゃんは恋に敏感だった。
「女はいつも誰かに恋してる!」が、イッちゃんの代名詞だった気がする。
「とうとう、水莉にも恋の季節がやってきたんだね!」
「水莉が恋だって?」
二人の話しに入ってきたのは、ボーイッシュな雰囲気の女子だった。
ツインテールにした髪の毛先をゆるふわに巻いているイッちゃんとは、真逆な雰囲気だった。
「エリちゃん」
エリもまたイッちゃんと一緒に恋愛成就のお守りを買いに行っていた。
ただ、こっちはどちらかと言えば、イッちゃんのお目付役としてだが。
「あのゲームヲタクが恋ねぇ……。どうりで雪じゃなくて、雨が降ると思ったら」
「エリちゃんまで、そう思ってたの……」
「そうりゃそうだよ。この辺りは雪が多い地域なのに、今年は雪じゃなくて雨ばかり降ってんだ。雨といえば雨女の水莉。他に原因があんのか?」
「わかる〜。エリが言いたい事!」
「イッちゃんだけじゃなくて、エリちゃんまで……」
呆れる水莉の前で、二人は「ねぇ〜」と頷き合う。
エリの言う通り、水莉たちが住んでいる地域は、降雪量の多い地域だった。
冬になると雪が降って、みんなコートに、マフラーに、手袋を身につけて、ブーツを履いて学校に来るのだ。
それなのに、今年に限っては連日の雨で、雪が全く降らなかった。
誰もがコートとマフラーしか身につけていなかったのだった。
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