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「陸上部って、雨が降っても部活があるんだね」
「そうなんだね……」
陸上部に所属しているエリは、天気や季節に関係なく、毎日部活動があった。
今日も放課後まで雨は止まなかったが、エリは部活動があるからと二人と別れたのだった。
帰宅部の二人は、教室でエリと別れると昇降口に向かっていたのだった。
「あっ!」
「どうしたの? 水莉」
「今日まで借りていた本、教室に忘れちゃった」
カバンの中に入れたつもりで、机の中に入れたままだった。
「明日じゃ駄目なの?」
「他にも借りたい本があるし、今日中に返しに行くね」
「またね」とイッちゃんに挨拶をすると、水莉は教室に戻っていく。
誰もいない教室に戻って、自分の机の中を確認すると、やっぱり本は残っていた。
今度こそ忘れずに本をカバンに仕舞って、教室から出る。
階段を登って最上階に辿り着くと、図書室は目の前にあった。
静寂な空気に包まれた図書室の中には、当番の図書委員以外、誰も居なかった。
水莉は本を返却すると、紙と古い本の匂いがする書架へと入っていく。
(今日は何の本を借りようか)
ふと手に取った本をパラパラと捲る。
どうやら、海の生き物を可愛らしいイラストで紹介する本だった。
すると、その中の「タツノオトシゴ」の項目に目を引かれる。
ーータツノオトシゴは、恋愛成就のシンボル!
ーーオスのお腹で卵を育てて出産する事から、タツノオトシゴは恋愛成就のシンボルと言われています。
ーーまた、オスとメスが向かい合う姿はハートのよう。その姿が可愛いと近年、水族館で人気を集めています。
(タツノオトシゴって……)
あの日、碓水と出会った修学旅行先で、雨宿りしていた水莉の代わりにイッちゃんたちがお守りを買ってきてくれた。
そのお守りに描かれていたのが、向かい合ったタツノオトシゴのシルエットであった。
(あのお守り、どこに仕舞ったっけ……?)
確か、自室の机の中に仕舞った気がする。
恋愛に興味がなかった水莉は、よく見ないで机の中に放り投げたような。
しげしげと本を読んでいたからだろうか、当番の図書委員が「あの……。そろそろ閉館時間なので閉めます……」と控えめに声を掛けてくる。
「すみません! すぐに出ます!」
水莉は今日返却した本ーー冒険もののファンタジー小説だった、の続きを借りると、すぐに図書室を出た。
学校を出て、最寄りの駅から電車に乗っても、水莉の頭の中からはタツノオトシゴの話しが忘れられなかったのだった。
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