恋愛成就のタツノオトシゴ

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自宅に帰って、夕食までの間、ゲームをしようと自室に戻った水莉だったが、気になって机の中を開ける。 「たしか、この辺に入れたはず……」 そうして、目的のものはすぐに見つかったのだった。 「あった!」 机の中から出して、顔の前に持ち上げたのは修学旅行の時に買ったあの恋愛成就のお守りであった。 ピンク色の布張りの四角形に、表面には向かい合ったタツノオトシゴの黒色のシルエット、裏面には黒色で「恋愛成就」と刺繍されていた。 「自分が恋愛成就のお守りをつけるなんて、恥ずかしいけれども」 恥ずかしくて、ずっと机の中に入れていたお守り。 イッちゃんやエリが言っていたように、水莉らしくなくてずっと身につけられずにいた。 でも、もう一度、彼と出会えるのなら。 壁に貼っているとあるゲームのポスターの前。 端を留めている画鋲にお守りを引っ掛けると、その前で両手を合わせる。 「お願いします。神様」 もう一度、碓水君に会わせて下さい。 あの雨の日、碓水と出会った事、話した事は今でもずっと水莉の中で覚えている。 今度、会った時は何を話そう。 碓水君は雪じゃなくて雨が降っているこの現状をなんて言うのかな。 ーー笑い飛ばすのかな。悲しむのかな。 この時は、この感情が恋だと気付けなかった。 それを自覚したのは、この日から数日経った時。 昼休みにエリにこっそり呼び出された事がきっかけだった。 その日も、朝から雨が降っていた。 昼休みの賑わっている校内を歩いて、二人は人気のない屋上近くの階段へとやって来る。 「どうしたの、エリちゃん? イッちゃんにも内緒なんて……」 「あのさ。水莉が修学旅行で会った男子って、碓水って名前だったよね?」 「うん。碓水氷太君って名前だったと思うけど」 「これを見て」 エリが渡してきたスマートフォンには、何かのプログラムが書かれていた。 「これって……?」 「私さ、春に開催される陸上の全国大会に出場する事になったんだ」 「すごい! エリちゃんおめでとう!」 水莉が目を輝かせると、エリは「しーっ!」と周囲を伺う。 「まだ学校には内緒にするように言われたんだ。今度の全校集会で発表するって」 「そうだったんだ。ごめんね。気づかなくて……」 シュンと肩を落とす水莉に、「ううん。喜んでくれて嬉しいよ」と首を振る。 「それでさ。他の学校から出場する選手の一覧が公開されたから見ていたんだけど、男子の部を見てたらさ……」 エリはスマートフォンを操作すると、また画面を見せてくれる。 「ここ。補欠なんだけどさ。碓水氷太って名前を見つけて、もしかしてと思って」 エリが示した画面を水莉は食い入るように、見つめたのだった。
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