あたしの意地悪な神様

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◇◇◇  野田さんは、あたしより3つ年上の先輩だ。頭の回転が速くて、仕事ができて、周りの人へのフォローも的確で、とにかく素敵な人。それに、銀フレームの眼鏡が似合っていて、知的でかっこいいんだ。眼鏡の奥のすっとした目で見つめられると、どきどきしてしまう。  残業なんて憂鬱だけど、今日は野田さんも一緒だからちょっと嬉しかったりする。できるだけ早く仕事を片付けて、夕飯にでも誘ってみようか。 「木原(きはら)さん、大丈夫? 疲れちゃった?」  突然野田さんの顔が目の前に現れて、息が止まりそうになった。ぼんやりなんかしているから心配されちゃったじゃないか。 「ご、ごめんなさい。仕事が終わったら何食べようか考えてました」  緊張のあまり、全然色気のない返事をしてしまった。食いしん坊みたいで恥ずかしい。5分前からやり直したい。野田さんは目を三日月みたいに細くして、くっくと喉の奥で笑った。あー、恥ずかしい。 「木原さん、可愛い。早く仕事終わらせて何か食べに行こうか」 「はい!」  勢いに任せて返事をした。まさか野田さんから誘ってくれるなんて。それに……気のせいじゃないよね。今、野田さん、あたしのこと可愛いって言ったよね? 舞い上がりそうになる気持ちをぐっと押し込める。今は仕事に集中しなきゃ。せっかく誘ってもらったのに、仕事が終わりませんでした、じゃお話にならない。
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