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第1章
白い壁。白い床。
黒い服。黒い写真立て。
少女の目に映るものは、白と黒に覆われていた。
伯父に抱えられ、白い箱の中で目を閉じる両親の顔を見る。
さよならを言って、と言われ、意味も分からずにさよならと呟いた。
黒い服に身を包んだ大人たちは、いくつかの場所で顔を寄せ合い、しきりに何かを話している。
同じく黒いワンピースを着た従姉の彩絵が、少女の隣に腰を下ろした。
「彩絵ちゃん。パパとママ、どこに行ったの?」
何気なく聞いたものだった。
大人たちが雑談をするのと同じように話をする。そんな感覚で彩絵を見上げた。
けれど彩絵は、今にも泣きそうな顔をして少女を抱きしめた。この質問はしてはいけないのだと悟った。
しばらくの間、ベンチで足を揺らしながら白黒の風景を眺めていた。
扉が開いて、男の人が顔を出す。するとそれぞれの場所で会話をしていた大人たちは顔を上げ、ぞろぞろと出入口の方へ向かった。
「恋雪ちゃんも行こう」
彩絵に手を引かれ、大人たちの後ろをついていく。
これからどこに行くのかも、そこに何があるのかも分からない。誰も教えてくれない。
少女は大勢の大人と一緒に、狭い部屋へと入れられた。
中心にはベッドくらいの大きさの箱が2つ置かれている。
再び伯父が少女を抱き上げる。
視線の位置が上がり、それが箱ではなく皿であることに気付いた。
皿の上には、以前病院で見たことのある骸骨に似たものが置いてあった。
骸骨を見て怖がる少女に、これは偽物だから大丈夫、と母は優しく頭を撫でてくれたことがある。
今ここにあるこれも、偽物なんだろうか。
2つの皿の向こう側に立っている男の人が何やら喋っているが、その意味はほとんど理解できない。
大きな箸を渡される。言われたとおり、伯父が持つ箸に軽く手を添えた。
伯父の持つ箸は骸骨の欠片をひとつ取り、白いツボへと入れる。どこからか小さな泣き声が聞こえた。
不意に、母が好きだった藤の香りが鼻をくすぐる。
なぜだか知らないけれど、両親にはもう二度と会えない気がした。
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