8人が本棚に入れています
本棚に追加
つまらない映画を見ているように、淡々と時間が進んでいった。
とてつもなく長く感じた1日が、もう少しで終わろうとしている。
これで家に帰れると思ったが、そう上手くも行かなかった。
少女は彩絵に手を引かれてバスを降り、馴染みのない家の玄関をくぐった。
「今日は疲れただろう。彩絵。先に恋雪ちゃんと風呂に入ってきたらどうだ?」
伯父が優しい声で話しかける。
伯母は、何も言わずにキッチンへと向かった。
彩絵に連れられ、脱衣場へ入る。
髪を洗ってあげる。背中を流してあげる。
従姉の声を遠くに聞きながら、冷たいタイルを踏みしめる。
お泊まり会をしているような気分だった。
それも旅行に行くようなワクワクするお泊まり会ではなく、両親に用事が出来て仕方なく預けられた、そんなよそよそしい雰囲気。
「彩絵ちゃん」
「なあに?」
「お風呂終わったら、おうち帰れる?」
ああ。これも、してはいけない質問だったらしい。
鏡越しに見た彩絵はまた顔をしかめて、少女を抱きしめた。
直接的な体温が肌にじんわりと伝わってくる。
「帰らなくていいんだよ。恋雪ちゃんはここにいていいの。恋雪ちゃんは私の妹になるんだよ」
「でも、パパとママがおうちで待ってるかもしれないよ。今日はお泊まりしてくるって、パパとママに言ってないよ」
「言わなくていいの。言わなくても、ずっとここにいていいの……」
震えた従姉の声が、泣いているように聞こえた。
だからこの話はもうしてはいけないんだと思って、少女は小さく頷くに徹した。
最初のコメントを投稿しよう!