第1章

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恋雪は泣いていた。 公園の真ん中にある大きなトンネルの中。 ここは暗くて冷たい。見知らぬ世界へ来てしまったみたいだった。 彩絵の家には、両親がよく連れて行ってくれた。車窓から見ていた景色を辿って来たつもりだったのに、気付けば見たこともない場所に立っていた。 公園の前には店が立ち並び、まだ人がたくさんいる。 見覚えのない場所に不安を感じながら歩いていると、お惣菜屋さんのおばさんに声をかけられた。 「お嬢ちゃん、1人?パパやママは一緒じゃないの?」 おばさんはきっと心配してくれたんだろう。 けれど恋雪は悪いことをしているような気がして、それを咎められた気がして、胸がドキドキした。 何も答えず、来た道を走って戻った。 公園を見つけて入った途端、空気はがらりと変わった。 まるで結界でも張られているみたい。 人は誰もいなくなり、道の反対側にいる人達もこちらには見向きもしない。 別の世界に来てしまったような気になって、また不安が恋雪を襲った。 心細さから逃げるようにトンネルの中へ潜り込む。 途端に、乾ききっていた頬を涙が伝った。 1度零れ出した涙は簡単には止まらず、1度感じた寂しさも簡単には消えてくれない。 寂しい。悲しい。 わたしはひとりぼっち。 パパもママもいない。ひとりぼっち。寂しい。 「泣いているの?」 不意に、男の人の声が聞こえた。 真っ暗なトンネル。月の光が照らす出口。 誰かが立って、こちらを見ていた。 黒い靴。黒いズボン。黒いパーカーのフードを被って顔を隠した男の人は、黒い手袋をしていた。フードから僅かに覗く黒い髪と、対照的に光るような白い肌。 なぜだか一瞬、人間じゃないような気がした。 いつか絵本で見た王子様に少し似ていて、別の絵本で見た天使にも似ているような気がして。 あまりに人間らしくない空気を纏った男の人は、ゆっくりと恋雪に近付く。 足下で砂が擦れる音が、とても心地のいい音に聞こえた。 「かわいそうに。こんなに震えて。寒いのかい?」 目の前まで来ると、ようやく顔が見える。 吸い込まれそうな漆黒の瞳が、静かに恋雪を見据えていた。 「さむい……」 男の人は恋雪の前に腰を落とし、頭をそっと撫でてくれた。 それから顔を上げて、公園の外に視線を向ける。 ここで待っていて、と言い残すと男の人はすくと立ち上がって恋雪から離れていった。
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