第1話 不可思議な朝

3/4
前へ
/167ページ
次へ
「ここにきてから顔色が悪くなる一方だな。眠りも浅いみたいだし。熱はないんだろう? ほかに不調は?」 「いえ、大丈夫です。ちょっと気が滅入っているだけなので」  トウカはてんこ盛りのおひたしに箸をつける。  ――おひたし、さすがに飽きてきたな。  食卓には三種類の朝餉が並ぶ。  ウツギの食べるご飯、みそ汁、卵焼き、おひたし。ポチが食べる少量のご飯、卵焼き。そしてトウカが食べる山菜のおひたし。  トウカはこの家にきてから、水とおひたし以外を食べていない。というのも、 「べつの世のものを食べてしまうとその世から出られなくなる、という噂がある。人の世に帰りたいなら、ここで食事はとらない方がいいだろう」  ウツギが最初の朝にそう言ったからだ。しかしそのあとおひたしが盛られた皿を突き出して、 「あやかしならば多少食事をとらずとも問題はないが、人はそういうわけにもいかないはずだ。これはあやかしの世の力が及びにくい場所でとれた山菜だから、食べるのならばこれにしておけ」  と、そう言ったから、トウカは三食山菜のおひたし生活を送っている。  一度だけ天ぷらが出たが、それ以外はずっとおひたしだ。どうやらウツギの好物らしい。放っておくと延々とおひたしが出続ける。泊めてもらっている身のためなにも言えないが、さすがに飽きてきて箸の進みも遅い。 「鏡に姿は映ったのか? 寝ぐせが直っている」 「まあ」  バツが悪くて髪を撫でつけるトウカを見ながら、ウツギはみそ汁をすすった。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

230人が本棚に入れています
本棚に追加