第3話 白い瞳

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「どうかされたか? ウツギ殿は留守だろうか?」 「――あ」  動けないでいたトウカの頬をポチが舐めた。はっとして、あやかしの言葉に小さく頷く。声はやはり出なかった。 「なるほど。近くに来たから挨拶を、と思ったが残念だ」  あやかしはそう言いながら、「おや」とトウカに顔を近づけた。とっさに後ろに手をついて身を引いたが、あやかしはトウカの目を興味深そうにのぞきこむ。 「不思議な瞳をしておいでで」  トウカはとっさにうつむいた。それまではなんとか耐えていたのに、心を不安の雲が覆う。体が小刻みに震えだすのを止めることができなかった。必死に地面についた手で体を支えようとするが、その手すら震えるのだからどうしようもない。逃げ出したいのに、立ち上がることもできない。  ――どうしよう。  ぎゅっと強く目をつぶった。  そんなとき、「トウカ」と静かな声がした。 「ああ、ウツギ殿。お帰りか」  あやかしの声がしてトウカが顔をあげると、ウツギがいた。眉を寄せて歩み寄ってきたウツギは、青鈍色の羽織を脱ぐとトウカの肩にかける。 「大丈夫か?」  トウカがわずかに頷くと、 「マガミ、せっかく来てもらったところ悪いが、こいつの具合が悪いらしい。すまないが、今日は相手ができそうにない」  とあやかしに向かって言った。 「そうか、それもそうだな。女子(おなご)よ、なにか気に障ることを言ってしまったなら申し訳ない。では、今日のところは失礼しよう」  あやかしは慇懃な態度で会釈をして去っていった。
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