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「立てそうか?」
「うん」
腕をひかれて立ち上がったトウカは、ウツギに支えられて縁側まで戻った。ポチが不安げにトウカの回りを駆け回る。
「あいつ――、マガミというんだが、見た目は凶暴そうだが穏やかなやつだ。怖がる必要はない」
秋の風が吹き抜けて、トウカは身を縮こませる。肩にかけられたウツギの羽織を掴んで胸に引き寄せた。だが、
「その瞳」
と、吐息のようにもらされたウツギの声に肩を震わせてうつむく。それまで聞こえていた木々の揺れる音が遠のいていく。膝の上で拳を握った。耳をふさいでしまいたい。このあとに続く言葉をトウカはよく知っているのだ。
――気持ち悪い。不吉だ。気味が悪い。
きっとウツギだって、彼らと同じようなことを言うのだろう。なにしろ自分の目は、普通ではないのだから。
だが、ウツギはトウカの予期していた言葉を口にしなかった。
「お前のその瞳――、綺麗だよな。月みたいで」
「え?」
ウツギは静かな笑みを浮かべていた。
トウカは自分がなにを言われたのか分からず、呆けたようにウツギを見た。
――綺麗? 私の目が?
「あの――」
なにを言えばいいのか分からず、口からは意味のなさない声がもれた。だが、そこでトウカの言葉を遮る者がいた。
「本当綺麗だよねー。まるで、あやかしのようで素敵じゃないか」
どこからか楽しげな声がした。
(第二章 第3話「白い瞳」 了)
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