第3話 白い瞳

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「立てそうか?」 「うん」  腕をひかれて立ち上がったトウカは、ウツギに支えられて縁側まで戻った。ポチが不安げにトウカの回りを駆け回る。 「あいつ――、マガミというんだが、見た目は凶暴そうだが穏やかなやつだ。怖がる必要はない」  秋の風が吹き抜けて、トウカは身を縮こませる。肩にかけられたウツギの羽織を掴んで胸に引き寄せた。だが、 「その瞳」  と、吐息のようにもらされたウツギの声に肩を震わせてうつむく。それまで聞こえていた木々の揺れる音が遠のいていく。膝の上で拳を握った。耳をふさいでしまいたい。このあとに続く言葉をトウカはよく知っているのだ。  ――気持ち悪い。不吉だ。気味が悪い。  きっとウツギだって、彼らと同じようなことを言うのだろう。なにしろ自分の目は、普通ではないのだから。  だが、ウツギはトウカの予期していた言葉を口にしなかった。 「お前のその瞳――、綺麗だよな。月みたいで」 「え?」  ウツギは静かな笑みを浮かべていた。  トウカは自分がなにを言われたのか分からず、(ほう)けたようにウツギを見た。  ――綺麗? 私の目が? 「あの――」  なにを言えばいいのか分からず、口からは意味のなさない声がもれた。だが、そこでトウカの言葉を遮る者がいた。 「本当綺麗だよねー。まるで、あやかしのようで素敵じゃないか」  どこからか楽しげな声がした。 (第二章 第3話「白い瞳」 了)
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