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一つに結ばれた長髪は菫色。恐ろしいほどに白い肌。着物は白色だが、袂にかけて髪と同じ色に染められている。にこにこ、というよりニヤニヤとした笑みを貼り付けてトウカを見てくる。
ウツギは自分の頭に現れていた犬の耳を撫でつけて消しながら、大きなため息をついた。
「前に話した知人だ。話していると疲れるやつ」
そう説明をされて、「ああ」とトウカはぼんやり頷く。以前ウツギが疲れた様子で帰ってきた日に会っていたという知人だろう。
しかしトウカの頭は靄がかかったようにぼんやりとしていた。いまだに頭の中では過去の記憶が呼び起こされている。こうなるとトウカにはどうしようもないのだ。忘れようとしても、目を背けようとしても、逃れることなんてできない。
そんなトウカを知ってか知らずか、シラバミは笑みを深めた。
「ほんとに、あやかしみたいな瞳をしているねえ、トウカちゃん。そんな白い瞳もっている人間は滅多にいないでしょ」
繰り返された男の言葉にトウカは押し黙る。膝の上で強く拳を握って息を吸うと、
「やめてください」
と、シラバミを睨みつけた。男は一層楽しそうに口角を上げる。
「私は――、この目が嫌いなんです。こんな目の話しないでください」
声は震えていた。
「おやおや、それは失礼。そっかあ――、君はその瞳が嫌いなんだね。ウツギくんは好きだって言っているのにねえ、残念だったねウツギくん。君が美しいと言った瞳が彼女は嫌いらしい。君の片想いだね」
ウツギは眉を寄せた。しばらく黙っていたが、諦めたように息をつきながら額を手で覆う。
「バミさん、あんた、なにしにきたんだよ――」
「いやあ、噂のトウカちゃんに挨拶しにきただけだよ」
「喧嘩売りに来たの間違いなんじゃないか。多分、トウカの中で印象最悪だぞ」
「えー、まさか喧嘩なんて売らないよ。――あれ、でももしかしてトウカちゃん怒ってる? うーん、ごめんね、ちょっとボク、人の気を逆撫でてしまう癖があるようなんだ。許してほしいなあ」
仲直りしようか、と差し出された手をトウカは無言で見つめた。シラバミは自身の手が握り返される様子がないと悟ったようで、「残念」と笑う。
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