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この階段はいつまで続くのか。もうどれだけ上ったのかも分からない。
「人の世とあやかしの世が繋がるのはいつなのか、それはだれにも分からない。お前が通ってきた道も、すでに消えているだろう。だからお前は人の世に帰れない。これから先も、もしかしたらお前が生きている間は道なんてできないかもしれない。――嘘じゃないぞ。なんなら来た道を戻ってみればいい」
少女は押し黙る。ウツギが話したようなことを祖母からも聞いたことがあったのだ。二つの世界が繋がることは珍しい。たまに繋がって人の世に紛れ込むあやかしがいる。逆もまたあるのだと。
「でも、私、帰らなきゃ」
――あやかしなんて、関わりたくない。
そんな思いだけが少女の頭をぐるぐると回る。まるで月の出ない朔の夜に灯りももたず放り出されたような不安に襲われた。
――あやかしは嫌だ。
首を絞められているように呼吸が苦しくなる。木々が風に揺れる音が遠のいていく。目の前の世界が閉じていき、足元が揺れる感覚がして、体が後ろに倒れていくのをどこか他人事のように感じた。
落ちる。
そう思ったとき、少女の腕が掴まれた。
「助けてやろうか」
低く心地の良い声に、少女ははっとして息を吸い込んだ。
「人間がこちら側に迷い込むなんて滅多にない。興味深いし、助けてやってもいい」
飛びかけた意識が戻ってきたのを察してか、ウツギは腕を放してまた階段を上りだした。
「あやかしは人間よりもずっと長く生きるんだ。だから退屈している。こういう珍しいことが起きると嬉しくてね」
ウツギの背が遠ざかっていく。それが無性に心細くて、少女はふらつく足を動かして追いかける。やっと階段の終わりが見えてきた。
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