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最後の一段を上ると、それまでくぐってきたものとは比べ物にならない大きな鳥居が待ち構えていた。その先には一本の広い道。道を挟むように屋敷が並ぶ。あちこちに提灯が灯り、冷えた風にのって喧騒が聞こえてきた。
見た目は人の世の街と変わらなかったが、どこか暗くてあやしい雰囲気が漂っているように思えてならなかった。
「どうする? あやかしの俺なんかを頼りたくないっていうならそれも結構。一人で帰る手立てを考えればいい。大変だろうけどな」
少女はうつむいた。
――本当は今すぐにも逃げ出したい。あやかしとは一緒にいたくない。
だが一人になるのも恐ろしい。目の前にいるウツギは会話もできるが、あやかしの中には理性のない者もいるのだ。一人になればなにが起こるか分からない。それに右も左も分からない少女一人でなにができるのだろうか。
まだ会って間もない美しい男。信用できるかどうかなんて分かったものではないが、それでも少女にはこの男が差し伸べた手を取る以外の道なんて用意されていなかった。
「助けて、ください」
震える声で呟く少女に、ウツギは頷いた。
「分かった。それじゃあ、改めて自己紹介。俺はウツギ。お前は?」
「トウカ、です」
「そうか――。よろしくトウカ」
行こう、とウツギは歩き出す。少女、トウカは頷いて青鈍色の羽織をかけた背中を追いかけた。
――私、どうなるんだろう。
不安に心をつぶされそうになりながら、トウカは暗くてあやしい、あやかしの街を進んだ。
(第一章「迷う影」 了)
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