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朝早く起き、灯油を代車に乗せて運ぶ。
ビニールハウスの大麻畑を全部燃やしてやるんだ。
それから、それから、
父と母を殺したアイツらを殺してやる。
ナイフをポケットに入れていた。
10歳の僕には大変な作業だった。
汗がたくさん背中を落ちてくる。額からもたくさん。
でも、僕がやらなきゃ。あの二人も解放してあげなきゃ。
こんな事をしても父と母が喜ぶかは分からない。
でも、あの夜に誓ったんだ。
この為に僕は産まれてきたんだから——。
「何、やってるんだ?!」
この声は覚えている。
憎っくき村長の声だ!
アイツらも桑を持って背後に立っている。
「これを燃やしてやるんだ!」
「そんな事させん!お前どこのガキだ?」
「僕は10年前にここで殺された夫婦の子供だ!」
「ん?あの時の?腹の中のガキ?」
「そうだ!!!」
僕は村長に向かってナイフを振り上げた!
その時、僕の頬に冷たい液体が触れた。
空を見上げると天から赤い雨が降り注いでくる。
その美しい雨は土にシミを作り、干からびた土を潤していく。
村長やその村人たちは、その雨に当たると苦しみ出した。何故かは分からない。
土の中からボコっと二つの手が伸びる。
土が盛り上がって、中から二つの人が這い上がってくる。
「父さん!母さん!」
その二人はあの時殺された父と母の姿だった。
「ありがとう。もう私たちは大丈夫だから逃げなさい」
「で、でも…」
二人は血だらけのまま、村長と村人へと襲いかかる。
「うわぁぁー!?」
「ぎゃ、ぎゃあぁー!!」
まだ赤い雨は降り続ける。
遠い場所からも苦しんでいる村人の声が聞こえてくる。きっと罪を犯した奴らに罰を与えているんだ。
「大麻は処分しておく。だから逃げなさい!」
「あなたは幸せになるのよ!」
「僕はね…父さんと母さんの子供で良かったよ!ありがとね!」
僕は泣きながら走った。
赤い雨が涙と混じり合っていく。
父さんと母さんにまた会わせてくれてありがとう。
山を下ると村人たちが苦しんで倒れている光景がある。
その人達にも雨はもっともっと降り注ぐ。
その横を全力で通り過ぎて行く。
僕は育ててくれた父と母とこの村を出て行った。
その村は大麻もろとも全て全滅した。
村人一人の遺体も見つからなかったんだと。
唯一見つかったのは二人の遺体だ。
そして——あの赤い雨はもう二度と降らない。
end
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