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本心を吐露する代わりに僕は、花を吐き出す。
それは文字通り、『吐く』という行為。
胃の奥底から迫り上がってくる抑えきれない吐き気。
気持ちが、悪い。自然と嗚咽が漏れて、目尻に泪が滲む。生理的な嫌悪感が、背筋を駆け抜ける。
ぱさり。一房、落ちる深紅の花は、ぽきりと折れた首のようで、視界が赤く染まる。
あぁ、この紅い花弁は、彼の口唇のように艶めいている。慎ましく閉じられた薄い口唇が開く時、僕の目は釘付けになって、呼吸すら忘れそうになる。
さっきも、たわいのない雑談の途中でニヤリと悪戯を思いついた時の少し悪い顔が、笑みが、焼きついている。目を閉じても、目蓋の裏に張りついているみたいに、鮮明に思い出せる。
下半身がズキッと疼く。痛い程の張り具合でズボンを押し上げる性欲の塊に、我ながら退いてしまう。
…同性なのに。
彼の妖艶な笑みが、僕の脳細胞を狂わせている。
首を切り落とされた椿の花がひとつ、またひとつ、と押さえた手の隙間からポロポロ溢れてくる。止まない吐き気に、泪も一緒に溢れてくる。血反吐を吐くように。
血を吐くような想い、か。
重いんだよ、こんなの。何処にも行けないこの想いは、捨てることも枯らすことも出来ない。
中身が見えないように二重にしたゴミ袋の中に、片っ端から花を掴んで突っ込んで、手の中でぐしゃりと潰す。
この気持ちごと。
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