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身体が一定のリズムで揺れている。
少し肌寒い。これは、風だろうか。頬に当たる空気が随分と冷たくて、鳥肌が立った。
身体は何かにくるまれているようだ。横抱きにされたまま、何処かに運ばれているらしい。これは、
遂に終わってしまったか。
お別れを言うことすら出来ずに、僕の人生は幕を下ろしたらしい。もう目も開けられないし、指先すら動かないし、世界は真っ暗で何も聞こえない。意識がするすると身体から這い出して分離していく。
これが、死ぬということか。
ーーー夢を、見ているようだった。
真っ白なシャツに黒いパンツ。いつも通りの自分が雑踏の中に立っていた。一人で、しっかりと地に足をつけて。
明るいのはガラス張りの天井から射し込んでくる光のせいだろう。大きなショッピングモールだろうか、中央が吹き抜けになっていて左右の通路は多くの店舗が軒を連ね、賑わっている。見覚えのない場所だ。
所々に左右の通路をつなぐ、透明なブリッジがかかっている。あちこちに動く人々の流れを塞き止める邪魔な石みたいに、僕の身体は動かない。何をしているんだろう。早くどかなきゃ。
銅像みたいに仁王立ちしている身体。正面に回り込んで顔を覗きこめば、ある一点を凝視して微動だにしない。その視線をたどって振り向いてみた先に、
アオイがいた。
見慣れないスーツ姿だったが、見間違えるはずもない。きょろきょろと辺りを見回しながら散歩でもしているようなペースで歩いていく。
…神様って最期に、粋な計らいをしてくれるもんだな。
生身では逢えなかったから、意識だけでも最期に一目、と飛ばしてくれたのだろうか。
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