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目を覚ました後。
最初に思ったのは、
え、夢?
ってこと。
意識だけになって、てっきり幽体離脱でもして漂っているのかと思っていた。確かにあの時、アオイに触れた気がしたのに、何処から何処までが夢だったのか。最初から全てが夢でしたと言われた方がまだ納得できるくらい、現実との境目が曖昧でまだ混乱している。
手を伸ばして、開いて閉じてぐーぱーぐーぱー。意図したように身体が動いていることを確認して初めて、ああ生きてるんだなって理解した。
理解したけど、この状況は何だ。
何で僕、アオイに抱きかかえられてるの。
顔が、近いよ。嬉しそうに、目を細めて僕を見つめている顔は、僕がよく知っているあの頃のアオイそのもので、自然と涙が溢れた。やっぱり、好きだなぁ。
きゅうっと胸を鷲掴みにされる。アオイの表情、言葉、動作ひとつひとつが僕を締めつけて胸が痛いよ。
「アオイ」
「ん?なあに?」
偲。
アオイの口唇が、僕の名前を形づくる。
「え、なん…で?」
だって、アオイは僕のことなんか知らないはずじゃ
「おかえり、偲。たくさんたくさん悲しませて本当にごめん」
思い出した、の?
「うん。全部何もかも。ひとりにして、ごめんね」
そう云うと、少しだけ僕の体勢を変えて正面から向き合うように抱え直すと、深呼吸ひとつ。そして、
「偲、大好きだよ。世界で一番好き。忘れないと死んじゃうくらい、偲のことが好き。だから」
…そんなに優しく微笑まないでよ。
「だから僕と、死ぬまで一緒にいてください」
「…何だよ、それ」
そこは、付き合ってとか、恋人になってとか、そこから始めるもんじゃないのか。一切合切すっ飛ばして、まるで、まるでプロポーズみたいじゃないか。
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