白銀の百合

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ーーーーー 空港であさひと再会して、僕たちの関係が仕切り直された日から既にひと月が経とうとしていた。 あと一歩のところで何とか現実世界に踏み止まった僕は、自宅に戻り、それはそれは手厚い看病を受けて、漸く人並みの肉体を取り戻した。日常生活を送れるくらいにはなったけれど、本調子とは言い難い。随分痩せてしまった身体を、自分のせいだと悲しげに見つめるあさひを見るのが嫌で、眉間をぐいぐい指で押しこんでやった。 慣れない料理にも手を出して、大嫌いな野菜は見るのも触るのもイヤと言っていた癖に、僕のためだからと必死に包丁を握る姿はちょっときゅんときた。 前々から甲斐甲斐しく世話をする奴だとは思っていたけど、もう気持ちが伝わっているからか、更に遠慮なく触れてくるようになった。毎日飽きもせず好きだよと言い続け、髪に触れ、頬に触れ、口づけて、抱き締めて、僕に幸せを与えてくれる。 小さな部屋があさひで埋まっていく。 あさひが勢い余って部屋を解約したせいで、僕の部屋に転がり込んできて、なし崩し的に同棲生活が始まったわけですが。 自分の部屋にあさひの荷物が徐々に増えていって、二人で暮らすにはちょっと手狭だよね、と言いながら、一緒にご飯を食べたり、下らない話をしながらテレビを見たり、ただ傍にいて触れ合う日々は本当に幸せに満ち満ちていて。
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