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…格好いいこと言いやがって。僕だって、僕だって、お前が好きなのに。一緒にいたいのに。それはお姫様みたいに一方的に守られるってことじゃないだろう?
腕の中でくるりと身体を反転させて、目の前の顎にかぷりと噛みついてやる。突然の反撃に目を丸くするあさひの口唇に、がぶりと噛みついた。
「…痛て」
「お前なぁ、巫山戯るなよ?僕はお前に守って貰わなきゃいけない、か弱い女の子じゃないんだ」
いや、どんな女の子より偲の方が可愛くて綺麗だよ、とへらりと笑う緊張感のない顔をぺしりと叩く。違う、そんな話はしていない。
「僕は、お前に人生背負って欲しい、なんて1ミリだって思ってないんだよ。僕は自分の足で立てる」
言うて、三十路前のおっさんだよ、二人とも。
「僕とお前は違う、別々の人間。各々の人生がある。それでも」
ぎゅっと両手で柔らかな頬を挟む。狼狽えた視線を無理矢理捕まえて固定する。
「お前の人生賭けて、僕の隣りにいろよ。手ぇ繋いで、同じ歩幅で、遠い未来まで一緒に、歩いていこうよ」
僕はモノじゃない。あさひの所有物じゃない。だから、背負う必要なんてない。同じ方向を向いて進んでいく、同志であり、友人であり、相棒であり、最愛の人なんだよ。
「一緒に生きるって、そういうことだろ」
どうだ、答えてみろ。真っ直ぐに見つめると、吃驚と見開かれていた目が徐々に三日月の形にたわんでいく。手のひらの下で、頬が緩く弧を描く。
「…敵わないなぁ」
嬉しそうな溜め息を吐いて、あさひの大きな手のひらが僕の手に重なる。
「ホント、カッコいいんだから」
こんなに可愛いのに、とぎゅうぎゅう抱き締められて足が浮く。肩のあたりに押しつけられた顔が潰れる。苦しいって!
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