露を吐く

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触れてはいけない。触れさせてはいけない。 誰にも、知られてはいけない。 この想いは。 ガチャ。 ノブが回される音に心臓が飛び上がる。 扉を閉めた時にとっさに鍵をかけていてよかった。 ---コンコン。 ドアをノックする音に、肩が揺れる。 急いで残りの花を袋に突っ込んで口を縛る。 誰にも、見られてはいけない。 「はい?」 不自然じゃない間で、何気ない風を装う。込み上げる吐き気をどうにか呑み込んでやり過ごす。 『---さん?います?そろそろ会議始まりますよー?』 同僚の声のトーンは自然で、単に時間を知らせてくれているだけ。詮索や疑いの声音は含まれていないことに、ひとまず安心する。 「ごめん!今すぐ行く!先行ってて」 『はーい』 暢気な声と共に足音が消え去るまでじっと待つ。完全な無音になってから、そっとドアを開けた。 廊下の左右には同じような扉が幾つか並んでいる。今出たばかりのドアに差し込まれていた、銀のプレートをひっくり返す。使用中の赤が、空室の黒に変わる。 こじんまりとしたオフィスは静かで、時折どこかの会議室から談笑が聞こえる。誰にも見つからないように足音を忍ばせて、給湯室脇のゴミ箱に急いで袋を突っ込んだ。 誰にも見つからないように。 誰にも触れられないように。
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