露を吐く

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美しく白い頬にはらりと長めの黒髪がかかる。黒曜石みたいに輝く瞳が隠されてしまうのが勿体なくて、もう一度かきあげてくれないかと、つい見つめてしまう。 薄い口唇は少し血色が悪い桃色で、首筋には血管が浮き出ている。高い鼻梁はツンとしている彼の性格そのもので、びっしりと長い睫毛が臥せられると眼鏡に当たってしまいそうだ。 時折すっと眼鏡の位置を直す指に見惚れる。手の甲に浮き出る血管や骨ばった華奢な手首の描くラインが、男性っぽくはなく、でも女性的ともいえなくて、何とも危うい色気が滲み出ている。 全体的にきゅっとコンパクトな彼は、ともすると背の高い女性よりも小さくて、顔の大きさや身体の骨格が、同じ男とは思えない程にこじんまりとして、ひとまわりもふたまわりも華奢なのだ。でも、全体としては明らかに男にしか見えない。それも、幻みたいに美しい男だ。 頭と視界の片隅では会議を追っているけれど、彼と同じ空間にいるともう、心も思考も奪われてしまう。 僕が正気じゃないという証拠。 無意識のうちに彼のことばかり考えている自分に、はっと気がつく。仕事中でも、プライベートでも、ふと気がつくと誘蛾灯に引き寄せられるようにフラフラと、彼という存在に惹き付けられている自分がいる。 その頻度が最近、格段に増えてきた。 それは、花を吐きもするだろう。
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