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『嘔吐中枢花被性疾患』ーーー通称【花吐き病】。
片想いを拗らせた人間のかかる奇病。
好きで好きで耐えられなくなった、抑えきれなくなった想いが花となって体内から吐き出される、現代の奇病。治る見込みもないではないが、不可能に近い。だからこそ、こんな可笑しな病に今なお僕は罹患しているのだ。
様々な彩りの花が吐き出される僕の身体。美しい花に与えられる養分はドス黒い感情。
"愛されたい" "気づいて欲しい" "僕だけに振り向いて" ーーーそんな浅ましく醜い欲望を吸いとった花びらが、美しい訳なんてない。
あわよくば自分のものにしたい、その美しい顔が歪むほど啼かせたい、よがり狂う姿を誰よりも近くで見て、感じて、犯したい…
想像するだけで罪悪感の募る想い。こんな汚れた妄想ばかり獣みたい求めているから、こんな病気にもかかってしまうんだ。
自分の中にコントロール出来ない部分があることが不愉快だった。秩序と理性と支配、それが僕の好む整然とした世界だ。
冷静で理知的であること。努力を怠らず、誰よりも賢く、俯瞰的に状況を見極めて場をコントロールすること。
どんなに本来の自分とはかけ離れた虚像であっても、僕は必死でそれを守らなくてはならない。それが、"彼の思う僕"のあるべき姿だからだ。
僕の存在価値は、彼に認められること。
胸を張って彼の横に立てること。
そこにしかない。
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