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そして、最後の手段。
忘却治療。強制的に、恋する相手にまつわる記憶を丸ごと排除する。恋心を忘れられる代償に、全ての想い出も失われてしまう。
…そんなこと、出来る筈がない。
花を吐く程馬鹿げた恋狂いには、つける薬などない。想う相手を強制的に忘れることでしか片付けられないこの恋は、恋なんて生易しいモノじゃない。怨念みたいなモノ。そう、呪いだ。
実体もなく触れられず、その丈を量ることも出来ない。在ると思っているのは本人だけで、蝕まれるのも本人だけ。
それでも、僕は君を忘れたくなかった。
どんなに辛くて苦しくても、何でもない顔をして君の傍にいたかった。今まで通りこれからも笑っていたいから、だから僕は仮面を被る。
君のことなんか何とも思ってない振りをして、
君の小指に光る指環を見なかったことにして、
君の傍にいつでも控えて、支えて、
壊れ物みたいな君の心を守らなければ。
それが僕の生きる理由。
そのためには、僕の気持ちなんて、どうでもいい。
君を守ることに比べれば、他のどんなことも取るに足らない些末なことだ。だから僕は強くなきゃいけない。この身体が朽ち果てる瞬間まで君を、騙し続けなればいけない。
そう遠くない昔、大切な人を喪ってしまった君の心は、とても脆い。淡雪のように、ほんの少しの衝撃で崩れ去り、汚されてしまう。僕が君を苛む全てから守ってあげなければ、壊れかけの硝子細工みたいに繊細な君は、すぐにでも粉々に砕け散ってしまうから。
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