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「冷たいお茶を用意しておいたから、それを飲んで先に休むといい」
リビングに戻ると匡介さんがテーブルにグラスに入ったお茶を用意して待っていた。まさか結婚初日から夫の彼にそんな事をさせてしまうなんて。
「匡介さん、そういうのは妻の私がやる事ですから」
「そんな古臭い考え方は俺は好きじゃない、それとも杏凛は俺の用意したお茶では不満か?」
キッパリハッキリそう言われると、逆に自分が間違っているのかしらと思いそうになる。だけど私に出来る事はそう多いわけではない、このままでは匡介さんの妻として何の役にも立てない。
「そうではありません。ですが、私は……」
やっぱり、自分の考えを上手く言うことが出来ない。昔から彼に見つめられるといつもそうだった、私の心まで見られているようなこの視線が苦手なの……
「……悪かった、俺は君の仕事まで奪うつもりはない。今日は疲れているだろうから早く休みなさい、俺は風呂に入ってくる」
俯いたままの私の肩にそっと手を置いた後、匡介さんは自分の部屋へと着替えを取りに行った。私が口に出せずにいた言葉を、彼はちゃんと気付いてくれた。
今夜は疲れている私を気遣ってくれただけなのに、私はそんな彼にお礼も言えなかった。
「初日から上手くいくわけないものね……」
私はそう呟いて彼が用意してくれたお茶を飲み終え片付けをすませると、その夜は用意された自分の部屋で休んだ。
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