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一瞬だが父の言葉の意味がきちんと理解出来なかった。何を言っているのかと、本気で父を疑ってしまいそうだったから。まさか、あの郁人君が……?
「ありえないわ、いつも優しかった郁人君が私を監禁なんて。そんな、いったい何のために……?」
私が駆け寄るといつもはにかむよう笑ってくれた。私が悪戯をしても滅多に怒ることはなく、いつも傍にいて見守ってくれているような人だったのに。
とても信じられなくて、気持ちが父の言葉を拒否しているようだった。
「いや、これは真実だ。あの日に迎えに行かせた車に杏凛が乗ることはなく、いつまで経ってもお前に連絡がつかなかった。私たちは狂いそうになったあの夜を今も忘れていない」
「……本当のこと、なのね? でもどうして郁人君が?」
私の両親や祖父と、郁人君の家族とは良好な関係を築けていたはずだ。そんな私を郁人君が監禁しなければならないような理由とはいったい何なのだろう?
「実は杏凛には話していなかったが、郁人君や彼の両親からはお前を嫁にしたいと何度も頼まれていて……」
「嫁……? 私が郁人君の?」
まさかそんな話があったなんて私は全く知らなかった。私にとって郁人君は良いお兄ちゃんで、彼も私の事を妹のように見ていると思っていたから。
「ああ、でもまだ杏凛は学生だったしそう急がなくてもいいだろうと話を先延ばしにしていたんだ。郁人君がそんな行動に出るほど思い詰めてるとは知らずに……」
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