4789人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな……匡介さんが、私の事を……?」
だって匡介さんはそんなの一言も言わなかったし、態度にだって出さなかった。記憶がない時期の後だって彼は必要以上に私に関わることもなく、私を見つめる鋭い視線だけはいつも通りだった。
匡介さんが私に契約結婚を提案するまで……いいえ、結婚してからも彼は何の変化も見せなかったのに。
「そうだ。匡介君が私たちに協力してくれて、鏡谷家の力も借りてお前を探し出してくれたんだ。彼がお前や郁人君の事に気付いてくれてなければ、あんなに早く助け出せなかっただろう」
そう言えばいつからか、両親が匡介さんと話すことが増えたような気はしていた。匡介さんが苦手だった私はいつも離れた場所にいて、ただ眺めているだけだったけれど。
それでも彼との結婚を両親が反対しなかったのは、そういう理由があったからなのかもしれない。
「私を監禁したのが優しかった郁人君で、そんな私を助けたのが匡介さんだった……? あの日、あの雷雨の日に私は……っつ!」
「杏凛!?」
何かが思い出せそうな気がしたと同時に、頭がズキンと痛む。頭の中に擦れた映像のように浮かぶのは、窓の外に見える激しい雨と稲光。
……そう、あの日はとてもひどい雷雨で校門で迎えの車を待つはずだった。
最初のコメントを投稿しよう!