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「大丈夫、少し眩暈がしただけよ。そんなに心配しなくても平気だから」
グラグラする頭を片手で押さえ、心配そうに傍に寄ってきた両親になんとかそう答えた。一瞬だが私の頭の中に流れた映像、あれがきっとあの日に私が見た景色に違いない。
思い出そうとすればズキズキと頭が痛むが、これは私が過去と向き合うための第一歩なんだと思う事にする。
「だが、杏凛……もしお前に何かあれば、匡介君が」
「分かってる、匡介さんに迷惑をかけるようなことはしないわ。だから今日の事は二人も彼には内緒にしておいて?」
私の言葉に驚いた顔をする両親を部屋に残したまま、静かに部屋を出ていく。廊下の向こうに立って待っている寧々を見つけて、速足で彼女のもとへ向かった。
「どうでしたか、杏凛様?」
「ええ、色々話してもらったわ。でももう一人からきちんと話を聞かせてもらう必要が出来たの」
両親は私が監禁されている時にどのような状態だったかは分からないと言った。ならば知っているのは私を助けたという匡介さん、彼一人。
すべてを知るために、私は匡介さんに何があったのかをきちんと話してもらうつもりだ。
「それって、まさか……」
寧々も何となく気付いたようで、少し戸惑った表情をしている。だがそれも仕方ないと思いながら、玄関を出て大通りまで歩きタクシーに乗り込むつもりだった。
ふっと後ろに誰かの気配を感じたが寧々だと思い気にせずにいると、ゴリッと背中に何か固いものが当たる。
「……久しぶり、杏凛ちゃん」
それは聞き覚えのある、ずいぶんと懐かしい声だった。
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