契約結婚で隠した過去には

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「……寧々(ねね)は帰したわよ、それで次はどうすればいいの?」  震えそうになる声を必死に堪えて、なるべく冷静なフリをする。本当は心臓はバクバクいっているし、呼吸は荒くなってきている。  いつ発作が起こってもおかしくない状態だったが、それでも私は後ろに立っている郁人(いくと)君になんとか尋ねることが出来た。 「そこに停めてある白のワンボックス、あの車の助手席に乗ってシートベルトを締めて」  郁人君の指さす方に確かに白のワンボックスカー、あれに乗ればきっと私はどこかに連れ去られてしまう……  彼の言うことに素直に従うか迷っていると、郁人君は背中に当てている何かを強く押し付けてくる。怖い、怖い、怖い……恐怖で頭がいっぱいになり、彼の言うままにワンボックスカーに向かい助手席のドアを開けた。 「早く乗って、シートベルトも……抵抗したら、分かるよね?」  後ろから囁いてくる郁人君の声は優しかったころとはまるで違う。どこか残酷さと冷たさを含んでいて、同じ声のはずなのにもう別人のもののようだった。  こんな時に自分はもう少し強い人間だと思ってた、それなのにいざそんな状況に置かれると恐怖で何も出来ない。  怯えながら発作が出ないように耐えることに精一杯で、誰かが助けてくれないかとばかり考えてる。  震える手でシートベルトを締めた後、郁人君からを両手をガムテープでぐるぐる巻きにされてしまった。  これでもう、私は彼から逃げられない……
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