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「郁人君、私は……」
「ああ、杏凛ちゃんは余計なことは喋らないで。その椅子に座って大人しくしてくれる?」
最初から用意されていたように一脚だけ置かれた椅子に私は黙って腰かける。目の前に見えるのは大きなガラス窓で、ここから見える空は今にも泣き出しそうな色をしている。
そう言えば雷雨になると言っていたわね、小さくため息をつきこれからの事を考える。もしこのままの状態で雷が鳴りだせば私はどうなるだろう?
それにこの景色、なんだか前にも見たことがあるような……
「ふふ、あの日とそっくりでしょ? さすがに同じ場所っていうわけにはいかなかったけれど、なるべく似たところを探したんだ」
「それは私を監禁したっていう日のこと? 何のためにこんな事を……」
郁人君は妙に私の記憶に拘っている、私が忘れてしまったあの日に彼にとって大事な何かが残っているのかもしれない。
ズキズキと頭は痛むままだが、いまだ全部を思い出してはいない。彼はあの日を再現して私に思い出させようというのだろうか?
「杏凛ちゃんが思い出してくれなくきゃ、意味が無いんだ。あの時言ってくれた言葉は君の本心のはずだから」
「……私の本心?」
やはり郁人君の言っている事が分からない。あの日、私はいったい彼に何を言ったの?
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