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「そろそろ降るかなあ? 今日を杏凛ちゃんが選んでくれて、僕は本当に運がいい」
窓からどんどん黒くなっていく雲を見つめて嬉しそうに笑う、そんな郁人君に聞きたい事はたくさんあるのに言葉が見つからない。
用意周到に準備されていた罠に掛ったのは私、それでも郁人君がいたタイミングはあまりにも良過ぎる気がした。
「どうして、私が実家に帰ると分かったの? 数か月ぶりなのに、普通は分からないはずよ?」
「そのためにプレゼントも送ったし、料理教室の生徒にも頼んでおいたからね。杏凛ちゃんの大事にしていた、あの天然石のブレスレット……思い出さなかった?」
「何を言って……?」
確かに封筒で届いた天然石はアクセサリーに使用するものだった、それに料理教室の女性の事だって。
まさかそこまで計算されているとは思っても無くて、ただ彼の事が恐ろしいと思った。
「誰からのプレゼントか知らないけど、君はあのブレスレットを特別大切にしてた。あの日もそう、僕が触れようとしたら杏凛ちゃんはもの凄く怒って……」
ズキンズキンと酷く頭が痛む、遠くの方で雨の降りだした音が聞こえてくる。暗い部屋に郁人君と二人きり、雨音と遠くから聞こえてくる雷鳴が私の奥に仕舞われた記憶を呼び起こそうとする。
「私は……」
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